歴史ぱびりよん > 映画評論 > 映画評論 PART9 > 遥かなる勝利へ Burnt by the sun 3: The Citadel
制作:ロシア
制作年度:2011年
監督:ニキタ・ミハルコフ
(あらすじ)
「太陽に灼かれて」3部作の完結編。
過酷な独ソ戦争のさなか、ドイツ軍が立て籠もる城塞を攻撃していたコトフ兵卒(ニキタ・ミハルコフ)は、ついに宿敵ディミトリ大佐(オレグ・メンシコフ)に捕まってしまう。しかしディミトリは、コトフに過去の裏切りを謝罪し、そして生き別れの前妻マルーシャとの再会を手配するのであった。自らが犯罪者となることを覚悟の上で。
しかし、コトフにとって、久しぶりの妻や家族との対面は辛いことばかりであった。マルーシャは他の男と再婚し、親戚筋もみなよそよそしい。独裁者スターリンの大粛清によって破壊され穢された過去は、決して修復することは出来ないのだった。
やがてスターリンに呼び出されたコトフは、例の城塞攻撃の司令官に任命される。しかし、彼が配属されたのは、怠惰な民衆をかき集めた素人集団で、しかも武器も持たずに突撃を強要される手はずになっていた。つまりこれは、ドイツ軍の手を借りた処刑なのであった。
最悪の死地に立ったコトフだが、そんな彼の前に、最愛の娘ナージャ(ナージャ・ミハルコフ)が現れた。全てを失ったはずのコトフにも、まだ守るべき命があったのだ。
(解説)
天才監督ミハルコフの真価が炸裂する一本。
「シネスイッチ銀座」に観に行った。
2作目(戦火のナージャ)とは打って変わって戦闘シーンを控えめにして、その分だけ人情シーンが分厚くなった。見終わってから3部作全体のテーマ性やストーリーを考え合わせたところ、むしろ「2作目は要らなかったんじゃね?」とか思ってしまった。まあ、あの時は、作り手が派手な戦闘シーンを並べて遊んでみたかったんだろうけどね。
さて、3作目の完結編だ。スターリンの暴政がテーマだから、ストーリーは当然のように地味で暗いのだが、相変わらずの軽快なテンポゆえそれを感じさせない。まさに、ミハルコフ監督の真骨頂だ。
この映画の人情劇の作り方は、我が国の三谷幸喜作品のそれに似ている。しかし、三谷作品はひたすら軽くて薄っぺらいのに、ミハルコフ作品は軽妙でありながら重厚な余韻がある。淡白でドライな性格のこの私が、映画館を出てから数日の間、事あるごとにいくつものシーンを思い返すほどだった。三谷氏とミハルコフ氏で、いったい何が違うのだろう?と考えたのだが、しょせんは人間の器というか作家の格が違うのだろう。
ともあれ、足かけ18年かかったけれど、「太陽に灼かれて」シリーズが無事に幕引きとなったので、良かった、良かった。