歴史ぱびりよん > 映画評論 > 映画評論 PART1 > 遥かなる戦場 The charge of the light brigade
制作;イギリス
制作年度;1968年
監督;トニー・リチャードソン
「歴史群像」という雑誌で薦められていたので、わざわざDVDを購入して見ちゃいました。
1968年の映画・・・ってことは、私の生まれた年かいな。古っ!
クリミア戦争(1854年)をテーマにした戦争映画です。イギリス軍の活躍を、イギリス人監督とイギリス資本が描く。原題を直訳すると、「軽騎兵の突撃」という勇ましさ。
しかし、ヨーロッパ映画はアメリカ映画とは一味もふた味も違います。そこにあるのは「諧謔精神」。
冒頭から「大英帝国ばんざい!」が謳われ、勇ましい軽騎兵が登場し、しかしそこで描かれるのは老化して腐敗しきった貴族出身の将軍たちと、下層階級出身の士官や新兵に加えられる虐待や差別です。
しかし、劇のタッチは妙に明るい。将軍たちのボケぶりと俗物ぶりが、コメディタッチで描かれるからです。
中盤から、いよいよクリミア戦争が始まりますが、そこでは「正義のイギリス対悪魔のロシア」といった単純化がなされ、ろくな検討もなされずに戦争が始まる様子が描かれます。現代と同じですな。
そして、年功序列で選ばれたボケ老人将軍たちは、前線でも美食や女あさりにふけり、まともに仕事をしません。そのたびに、若い兵士が無駄に死んでいくのです。
最後は、世界最強と言われたイギリス軽騎兵旅団が、拙劣な指揮によって、無謀な突撃を試みて全滅する様子が壮大なスケールで描かれます。若手の登場人物は、ここで「皆殺し」になります!
私が知る限り、クライマックスに「負け戦」を用意し、しかもここまでカネをかけた映画はこれだけです。
ラストシーンは、原型を留めぬまでに損壊された人と馬の死骸の前で、ボケ将軍たちが責任のなすり合いを始めて「THE END」。
いやあ、ものすごく暗い戦争映画です。それでいて、後味が少しも悪くないのがヨーロッパ流のブラックユーモアというか諧謔精神の産物でしょう。
アメリカや日本で、こういった深い味のあるドラマは作れないのかといえば、まあ無理でしょうな。アメリカ文化は皮相的だし、それの猿真似を繰り返す日本文化は、もっと薄っぺらだもの。