歴史ぱびりよん > 映画評論 > 映画評論 PART13 > キングスマン:ファーストエージェント The king’s man
制作:イギリス、アメリカ
制作年度:2021年
監督:マシュー・ヴォーン
(あらすじ)
イギリス滅亡を策する悪の秘密結社「闇の教団」が、第一次世界大戦を勃発させた。
愛国心溢れるオックスフォード卿(レイフ・ファインズ)は、自ら私財を投じて非公認スパイ組織「キングスマン」を立ち上げて、巨大な悪に立ち向かうのだった。
(解説)
友人たちと、新百合ヶ丘のイオンシネマで観た。
あまり期待していなかったのだが、これと近いタイミングで観た『007ノー・タイム・トゥ・ダイ』よりも遥かに面白かった。
こちらは、先に紹介した『クーリエ』と違って、娯楽に偏ったコメディ系のスパイ映画である。しかし、史実の重要ポイントをちゃんと踏まえて描いているので、それなりに歴史の勉強にもなるという変わり種作品である。
「悪の秘密結社が世界史をコントロールしていた」という荒唐無稽な陰謀論を、ここまで大真面目に描いただけでも凄い。何しろ、「闇の教団」のメンバーには、レーニンやラスプーチンやマタ・ハリ(実在の女スパイ)にプリンツェプ(サラエボ事件の主犯の人)、ついにはヒトラーまでいるのだ。その割には、大ボス「羊飼い」の正体がショボかったので、「なんで世界史レベルの大物たちが、こんなショボい奴の唱えるショボい目的(=イギリス滅亡)のために忠誠を誓っているのだろう?」と、首をかしげてしまうという設定上の弱さもあったのだが。
物語そのものはコメディタッチだが、イギリスのキッチナー陸軍大臣が海上で謎の爆沈死を遂げたこと。ロシア皇帝ニコライ2世が、謎の怪僧ラスプーチンに操られていたこと。オーストリア皇太子が、サラエボで不可解な動きをしていて撃たれたこと。アメリカ大統領ウイルソンが、なかなかドイツに宣戦布告しなかったこと。そして、大勢のイギリスの前途有望な若者たちが、「高貴なる義務」の精神を胸に抱いて前線へと志願し、空しく斃れていったこと。こういった、実際の歴史の中で現れた奇妙な断片を、次々に陰謀論と組み合わせたところは、なかなか上手だった。
世の中には、リアリティ重視と銘打っておきながら、実際には間違いだらけの酷い内容の歴史映画が多いので、少しは『キングスマン』を見習ったらどうだと言いたいところだ。
コメディ映画としてもなかなか楽しい出来で、怪僧ラスプーチンが、チャイコフスキー『1812年』のメロディに乗って、バレエダンス風の格闘術で戦うシーンは、思い返すだけで大爆笑だ。
なお、『キングスマン』は、現代を舞台にした本家のシリーズがあり、この『ファーストエージェント』は前日譚であるようだが、私は本家の方は未見である。さらにややこしいことに、この『ファーストエージェント』にも続編が出来そうな気配なので、最近のシリーズ映画は難しくていかん。