歴史ぱびりよん > 映画評論 > 映画評論 PART13 > 1950鋼の第7中隊 長津湖
制作:中国
制作年度:2021年
監督:チェン・カイコー、ツイ・ハーク、ダンテ・ラム
(あらすじ)
1950年、朝鮮戦争が始まった。
北朝鮮軍を蹴散らしつつ中国との国境に迫るアメリカ軍の猛威を前に、毛沢東主席は祖国を守るため苦渋の決断をする。彭徳懐将軍率いる人民志願軍は、ついに朝鮮半島に出陣するのだった。
国共内戦を終えて帰郷したばかりの伍千里(ウー・ジン)は、第9兵団の第7中隊長として、再び原隊復帰を余儀なくされる。弟の万里(イー・ヤンチェンシー)も勝手について来た。歴戦の強者たちは、様々な苦難を乗り越えて、ついに長津湖の激闘に臨むのだった。
(解説)
Blu-rayで見た。
言わずと知れた中国の国策プロパガンダ映画である。中国軍がアメリカ軍と戦い、これを打ち負かすのがテーマだから、昨今の世界情勢を反映していると言える。
戦闘シーンの演出は、ロシア映画『T34レジェンド・オブ・ウォー』の影響を濃厚に受けていて、砲弾がスローモーションになったりして漫画っぽい。CGの質がちょっぴり残念だが、これからの戦争映画はこういう演出がトレンドになるのかもしれない。
こういった映像表現以外にも、あちこちに中国軍や毛沢東を美化し、アメリカ軍を邪悪に描くようなデフォルメがあるのだが、肝心の史実部分は意外に正確である。
中国の人民志願軍(正規軍を投入すると本格的な米中戦争になってしまい、それは毛沢東も嫌なので、正規軍をボランティア軍だと粉飾して戦場に送り込んだ)が、長期に及ぶ国共内戦で鍛えられて戦争慣れしており、かなり優秀だったことはその通りだろう。また、アメリカ軍の航空優勢を無力化するために、昼は寝て夜間に移動する。あるいは、真っ白な軍服を着て雪原に横たわることで、偵察機の目を眩ますような策略は、史実でもその通りだったようである。
クライマックスの「長津湖の戦い」が、中国側のほぼ完ぺきな奇襲攻撃となり、アメリカ軍が壊滅状態になって敗走したのも史実通りである。
中国軍は、自軍の長所と短所を正確に把握し、同時にアメリカ軍の長短も研究し抜いていた。そして、自軍の長所を敵の短所にぶち当てることで勝利したのである。まさに「孫子の兵法」を実践したのだから、さすが中国四千年の知恵は侮れない。
それに対して、兵力が圧倒的に劣後しているというのに、わざわざアメリカ軍と同じ土俵に自ら上がって(つまり、自分の短所を敵の長所にわざわざ当てに行って)、連戦連敗を繰り返した大日本帝国軍は、本当に情けないね。こういうエピソードを見ると、日本は未来永劫、アメリカどころか中国にも適わない本質的理由が良く理解できる。
「長津湖の戦い」でアメリカが大敗した理由は、総大将であるマッカーサー元帥の責任が極めて重大だ。この人は、晩年の豊臣秀吉やナポレオンなどが落ち込んだのと同様の「傲慢の罠」にどっぷり嵌まってしまっていた。自分の天才性を過大評価し、自分の思い通りにならない状況など起こり得ないなどと錯覚した。必然的に、不愉快な情報を全てシャットダウンし、お世辞しか言わない取り巻きばかり周囲に侍らせ、その結果、中国の大軍が襲い来ることに気づかなかったのである。傲慢の罠は、どんな人生にも必ず付きまとう陥穽だと思って、我々みんな自戒すべきだろう。
さて、中国でこのような戦争映画が作られる反面、アメリカでは中国を敵にした戦争映画を作れないようだ。その理由は、ハリウッド資本がすでに中国マネーに牛耳られていることにある。アメリカ人は誰も、スポンサーを怒らせたくないのである。つまり実際の戦争以前に、戦争映画製作の世界で、アメリカはすでに中国に負けているのである。
『1950』は、そのことを高らかに謳った象徴的な映画なのかもしれない(苦笑)。