歴史ぱびりよん

第二十七話 アニメの巨匠イジー・トルンカ

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冷戦時代のチェコスロヴァキア

復活したチェコスロヴァキア共和国は、戦前に比べて、やや社会主義の色彩が強い民主主義国として再スタートしました。しかし、1948年、共産党によるクーデターが起こり、ソ連にべったりの社会主義国家に変貌してしまいます。

この間、世界情勢は、アメリカVSソ連の冷戦構造が明確化していました。ヨーロッパは「鉄のカーテン」で東西に二分され、チェコスロヴァキアは、当然のように東側に組み込まれてしまったのです。

市場経済は否定され、市民の言論活動は著しく制限され、農業は高度に集団化され画一化されました。このような体制の下で、文化や芸術も戦前のような華やかさは失われていきます。

それでも、チェコ文化の火は消えたわけではありません。伝統的なマリオネットの技術は、今や新たな発展段階を迎えようとしていました。

人形劇士としてキャリアをスタートさせたイジー・トルンカ(1912~69)は、ハリウッドなどで脚光を浴びたアニメーションの技術に着目し、これを人形劇と融合させます。すなわち、人形アニメです。彼の紡ぎ出す玄妙な作品群は、1950年代以降、全世界で絶賛されました。日本からも、川本喜八郎らが、彼に弟子入りしたのです。

トルンカは、ディズニーなどのペーパーアニメに傾倒した時期もあるのですが、「動きが立体的でない」のが気にいらず、やっぱり人形アニメに帰ってきました。幻想的な『真夏の夜の夢』、コミカルな『兵士シュベイク』、そしてシュールで哲学的な『手』など、多彩な味を持つトルンカの作品群は、今でも色あせることがありません。

トルンカの他には、児童向けの人形アニメに新風を吹き込んだヘルミナ・ティーロルヴァー女史や、壮大な世界観を展開するカレル・ゼマン、そしてシュールレアリズムの異端児とも言えるヤン・シュバンクマイエルの作品が世界的に有名です。

最近でも、チェコのアニメパワーは衰えることがありません。

社会主義時代のアニメは、国から潤沢な資金を与えられる代わりに、思想統制によって自由な作品(特に体制批判にからむもの)を創作することが出来ませんでした。しかし、ビロード革命によって自由化されてからは、思想統制はなくなった代わりに、慢性的な資金不足に悩まされるようになりました。

それでも、チェコ人の多くはこの文化を大切に考えています。新進気鋭のアニメーターたちは、乏しい資金をやり繰りして、すがすがしい新風を吹かせ続けています。最近では、アウレル・クリムト監督なんか良いですね。

こうして、チェコのアニメは、今では人形劇と並んで、世界で有数の高水準を誇っています。トルンカとその弟子たちは、チェコの文化に新たな地平線を開いたので した。