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歴史論説集

概説 ロシア史

バイキング大暴れ

バイキングの活動(概念図)

 

    世界史は、ある特定の民族集団が、ある特定の時期に大暴れすることで、大きな地殻変動を起こすという不思議なダイナミズムを持っています。

 ヒッタイト帝国を滅ぼしたと言われる海の民の襲来、ローマ帝国を崩壊させたフン族の襲撃やゲルマン民族大移動、中華帝国を震撼させた匈奴や五胡十六国、アラブの辺境から興ったイスラム帝国、チンギス・ハンのモンゴル帝国、中南米を滅ぼしたスペイン帝国、日の沈まない大英帝国、フランスのナポレオン帝国、ヒトラーの第三帝国などなど。

 このようなダイナミズムがなぜ起こるのかについては、諸説あってはっきりしません。おそらく、最大の原因は地球規模の気候変動や、それに伴う経済環境の変化でしょう。世界の歴史学者は、なぜか経済に疎い人が多いので、その辺りの考察が常に甘い傾向が感じられますが。

 さて、9~11世紀にかけて、北欧スカンジナビア半島を震源地とした地殻変動がありました。バイキングが大暴れを始めたのです。

 バイキングというと、縦長の木造快速船(ロングシップ)に乗った、2本角の兜と毛皮の鎧を纏った毛むくじゃらの巨漢たちが、大斧を振るいながら殴りかかってくるイメージが強いのですが、このイメージは後世になって作られた虚構であるようです。実際のバイキングは、戦闘時には西欧の騎士たちと同じような恰好をするけれど、そもそも普段は武装をしていない人々で、その本質は貿易商人だったのです。

 バイキングは、9世紀に大暴れするようになってから、急に西欧の記録に登場するようになったけど、記録に残っていないだけで、その活動自体はかなり古いと考えられています。平和的に海上交易をするだけの集団なら、あえて西欧の王侯諸侯や聖職者が記録に残す必要がないから無視されていたのでしょう。

 そんなバイキングが、そもそも造船技術を研ぎ澄ませて海上交易を始めたのは、古代ギリシャの都市国家群と同じ理由だと考えられます。すなわち、スカンジナビア半島も、ギリシャと同様に耕作に適した土地が少ない山ばかりの土地柄なので(しかも寒冷)、生活資源を外部から獲得するしか有りません。そのために、知恵を磨いて貿易の技能を向上させたのです。

 バイキングの造船技術と操船術は、まさにオーバーテクノロジーといったところで、10世紀の時点で、グリーンランドはもちろん北アメリカ大陸に到達していた記録があります(コロンブスより500年早い!)。

 そんな彼らの主要な交易相手は、貧困地帯だった西欧ではなく、むしろ東欧のビザンツ帝国や中東のイスラム文化圏でした。すなわち、スカンジナビア半島からドーバー海峡ないしデンマーク海峡を経て、ジブラルタル海峡から地中海を抜けて、トルコ方面に繋がる形の海上交易ルートが存在していたのです。

 ビザンツ帝国やイスラム諸国家は、衰退してからの印象が強いので過小評価され勝ちですが、この当時は世界最高の経済大国であり文化大国でした。これらの国々とのアクセスは、バイキングにとって生活の根幹にかかわる死活問題だったのです。

 交易商人だったはずのバイキングが、9世紀になって突然狂暴に暴れだした理由は、おそらく、この生命線とも言える東欧や中東への貿易路が、遮断される危機にさらされたからでしょう。はっきりした証拠は無いのですが、カール大帝率いるフランク王国(フランス~ドイツ)が、バイキングの交易ルートを遮断する形に勢力を伸ばし、過激なカトリック化に乗り出したことが背景にあるような気がします。

 カトリック化というのは、後のスペインの中南米侵攻の時もそうだったのですが、純粋に精神的なソフトの問題ではなくて、経済利権のハードの問題が濃厚に付いて回ります。おそらく、「カトリック信仰をしない者たちを交易から排除する。あるいは高額の関税を取り立てる」といった事態が西欧一帯で起きたのでしょう。多神教を奉ずるバイキングたちは、そのような排他的な事態を傍観することは出来ず、むしろ軍事征服によって交易路を維持しようとしたのです。

 そう考えれば、バイキングの征服先が、ドーバー海峡や大西洋に沿った国々、地中海ではシチリア島などのイタリア南部のカトリック地域だったことに合理的な説明が付きます。これらの地域を押さえれば、中東イスラム圏への交易路が維持されるからです。

 東アジアでも、似たようなことが起きています。14世紀に、「倭寇」が暴れ出した理由は、中国や韓国で貿易規制が起こったため、それまで平和的に交易をしていた人たちが武装化したものと考えられています。バイキングも、これと同じことだったのでしょう。

 近世以前の世界では、交易商人が「海賊」になり、あるいは精鋭な軍勢に早変わりすることは容易でした。なぜなら、治安が悪い時代の交易キャラバンは、慢性的に盗賊や周辺諸侯の略奪の対象になるのだから、商人たちは防衛上の理由で、武装して軍事訓練を積んでいるのが普通なのです。しかも、彼らは先進的な組織に属する屈強で経験豊富な男たちなのだから(おまけに数字にも強い)、その気になれば、かなり強力な戦士集団になります。

 そういうわけで、バイキングは無茶苦茶に強かったので、あちこちの征服先に国家を築き上げ、それらを長く維持して、その後の世界史を大きく変えました。たとえば、今のイギリスやフランス国家の原型は、バイキングの征服から始まったのです。

 東の地でも、同じようなことが起きていました。

 ロシア国家の成立にも、バイキングが大きく関わっているのです。

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