歴史小説家 三浦伸昭の歴史ぱびりよん

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歴史論説集

概説 ロシア史

社会主義思想の恐怖

ルビヤンカ~秘密警察の本部で、様々な粛清の舞台となった

 

 ここでは俯瞰的に、ロシアが撒き散らした全世界の社会主義の動向を見ていきます。

 ソヴィエト連邦は、当初は全世界に同地多発的に社会主義国家を樹立しようと試みました。マルクスの「予言」を絶対視していたので、世界中がいずれ共産主義になることは既定路線だと考えていたのです。ソ連は、その動きを人為的に早めて革命の手助けをしようとしたのです。

 しかし、その多くは失敗しました。まずはポーランド、次いでトルコで失敗します。北欧諸国も、社会主義を拒否します。これらの国々は、ソ連型社会主義とは異なる手法で国政を安定させたのです。こうして、ソ連は全世界から孤立しました。

 しかし、第二次世界大戦が全てを変えました。ナチスドイツを屠り、日本に止めを刺したソ連は、東欧一帯を軍事的に支配して、この地域に無理やり社会主義を押し付けるのです(ポーランドもついに屈服する)。しかし、暴力で強制的にそれをやったものだから、常に不安定でした。ハンガリーやチェコスロヴァキアでは離反騒ぎが起きたし、ユーゴスラビアは離反して独自路線に走りました。

 大金星が上がったのは中国です。ここでは、毛沢東率いる中国共産党が、社会主義の中華人民共和国を築き上げて、ソ連の頼りになるパートナーになりました。しかし中国は、スターリンの死後、路線対立を起こしてソ連と仲たがいします。

 ともあれ、ソ連、中国、東欧は社会主義を受け入れたのです。やがて、カンボジアやベトナム、キューバらも仲間に入ります。これらの国々では、何が起きたのか?

 レーニン修正主義の眼目は、「無謬の絶対的存在である独裁政府が、地球人類の至高の目的である共産主義を実現させるために、無知蒙昧なる大衆の上に君臨する。そして独裁政府は、至高の目的を達成し大衆に言うことを聞かせるためなら、どのような無茶な暴力を振るっても構わない」という考え方にあります。

 必然的に、軍隊や秘密警察が幅を利かせて、民衆の生活をコントロールするような社会が各地に誕生しました。あちこちに盗聴器が仕掛けられ、密告者が徘徊し、体制に懐疑的な者は強制収容所に収監されるか死刑になりました。

 それだけなら、民衆は「口をなるべく開かないようにして我慢する」ことで生き延びることが可能です。しかし、さらに過酷な運命が有り得ました。

 レーニン型社会主義の信奉者は、「共産主義を実現するためには、人間存在と既存社会を抜本的に造り変える必要がある」と考える傾向にありました。つまり、共産主義自体が夢想的だから、その担い手である人間そのものを夢想的に造り変えようとしたわけです。そのために、様々な奇妙な社会的実験を行いました。

・結婚を否定して、乱交パーティーのようなことを男女にやらせて、生まれた子供は国家でナンバリングして一元管理する。

・家庭での炊事を否定して、あらゆる食事を国が用意した公共食堂で行わせる。

・貨幣や通貨を全否定して、物々交換や配給だけで社会を成り立たせようとする。

・社会的平等を実現するために、国民をみんな平等なバカに造り変えるべく、教育を否定して知識人を皆殺しにする。

・それとは逆に、国民全員に高度な教育を与えて、全国民を平等に賢くしようとする。

 もちろん、これらの実験は、人間や社会の本質を無視した無茶苦茶なものなので、ほとんどが企画倒れか失敗に終わりました。そして、この実験の過程で、多くの人々が命を失ったのです。中国の大躍進政策や文化大革命、カンボジアのキリングフィールドなど、興味がある人は調べてみてください。平和な社会の中で、愚かな政治指導者たちによって意味もなく殺された人々の悲哀は、永遠に語り継いで教訓として残すべきでしょう。

 日本も、決して例外ではありませんでした。規模は小さいけれど、「よど号ハイジャック」、「テルアビブ空港乱射」、「あさま山荘事件」など、やはり「正しい目的のためならどんな暴力でも許される」という思い込みによる惨劇は続発していました。群馬の山中では、連合赤軍などに属する若者たちが、大勢の仲間たちを「(根性を)修正する」という名目で、リンチして嬲り殺しにしましたね。

 ただし、これら社会的実験の中で、唯一の成功例を上げるとするならば、おそらくはキューバのカストロ(あるいはゲバラ)主義でしょう。全国民に平等に高度な教育を与え、しかも医療と教育を完全に無償化する試みは、今でも継続し機能していて、社会主義にもそれなりの良い側面があることを気づかせてくれます。詳しく知りたい方は、拙著『カリブ海のドン・キホーテ』をどうぞ(笑)。

 それ以上に、ソ連とその仲間たちの存在は、地球規模で良い刺激を与えていた側面があります。すなわち、「格差社会の否定」です。

 ソ連型社会主義は、無茶苦茶なこともしましたが、その根底には「全人類の平等を目指す」というテーゼがしっかりと存在していました。そのため、真面目な社会主義者は、あらゆる経済格差を否定しようとしました。これらは、自由主義社会に住む人々にも受け入れやすい理想だし、実際にアメリカや西欧や日本などにも、社会主義者に共感する勢力が多く生まれたのです。こうなると、自由主義政府は、国内の騒乱やソ連勢力の浸透を恐れて、経済格差の縮小を政策目標に掲げます。そのため、全地球規模で経済格差が抑えられていたのです。

 しかし、ソ連崩壊後に全てが変わりました。歯止めが無くなった自由主義は暴走を始め、世界中の経済格差は究極レベルにまで開き、そのことが新たな不幸や軋轢を生んでいます。

 今日存在するのは、理想を無くして我欲だけが暴走している世界です。

 社会主義の理想は、いろいろと間違っていたことは確かなのですが、それでも、この理想が存在していた時代の方が、全世界の人々の総合的な幸福度は、ある一面では高かったのです。これも、歴史の皮肉ですね。

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