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歴史論説集

概説 ロシア史

プーチンのロシア

 さて、ソヴィエト連邦が崩壊した後、旧ソ連領土は「独立国家共同体」となり、様々な国に分裂しました。レニングラードは、サンクトペテルブルクにその名を変えました。ウクライナやベラルーシらが、晴れて独立したのはこの時です。

 しかし、これらの国々は、ソ連時代に権力者の都合で適当に国境線が引かれた自治共和国ごとに独立したため、実際に居住している民族の生活圏についてはほとんど考慮しておらず、いくつもの民族がそれぞれの国境線で分断されてしまい、ソ連時代には有り得なかった民族紛争が多発するようになりました。今回のウクライナの戦争も、その問題の延長線上にあります。

 いずれにせよ、冷戦崩壊によって、ロシアの領土は大きく縮小してしまいました。それだけではありません。一気に西側資本主義圏に取り込まれたため、経済的な大混乱を起こしました。社会主義の計画経済を自由資本主義に切り替えるのは、かなりの難事業であった上に、これを好機と見てロシアに入り込んだ西側資本が激しい搾取を行ったのです。ロシア人の西側に対する恐怖心と猜疑心は、この時にさらに強化されてしまいました。

 ボリス・エリツィン大統領が主宰する民主主義の猿真似政権ではどうにもならず、経済崩壊寸前だったロシア連邦に登場したのが、ウラジミール・プーチンです。大統領になった彼は、資本主義の新興財閥オリガルヒたちに大弾圧を加えつつ懐柔し、彼らを国家(というよりプーチン個人)に従属させました。

 からくも経済を立て直したプーチンは、ロシアを再び強国に伸し上げようとします。チェチェンやオセアチアで起きた民族紛争を武力で解決し、批判的な立場を取るジャーナリストを次々に暗殺しました。オリンピックやワールドカップを開催し、スポーツ選手にはドーピングを強制して国威を高揚させます。何のことはない。ロシアは、スターリン時代と似たような国になったのです。

 2014年、ウクライナで民族問題が発生すると、プーチンのロシアは武力行使に打って出て、クリミア半島を併合してしまいました。この際に、国際社会は経済制裁を行ったのですが、あまり効き目は有りませんでした。どの国も、ロシアから輸出される安価な天然ガスや石油やレアメタルに依存しきっていたからです。また、ウクライナの武力による抵抗も貧弱でした。

 2022年、ロシアがウクライナに対する大規模な侵攻を始めたので、全世界は驚倒したのですが、落ち着いて考えてみれば、プーチンは今までと同じ政策の延長をしただけです。

 ウクライナのゼレンスキー大統領が、国内の人気取りのためにNATO加盟を大々的に言い出したことが、この侵攻の決定的な引き金になったわけですが、そもそも民主主義国家における人気取りの発言など、実現可能性が極めて低いものです。しかしながら、歴史の中で民主主義政体の経験をほとんど持たないロシア国民は、そういった捉え方をしませんでした。ウクライナが、本気で西側諸国の尖兵になると思ったのです。もちろん、歴史の中で、何度も西側に侵略されたり虐殺されたりしたトラウマも強烈に作用しました。それ以上に、ロシア人は歴史の中で、「正しい目的のためなら、どんな非道な暴力も正当化される」という考え方に慣れてしまっています。そう考えるなら、西側の人々からは異常と思える今回の侵攻も、ロシア人にとってはあまり違和感が無いものなのです。

 今回の侵攻の根本的な原因には、我々のロシア人とロシア文化に対する無理解があったように思えます。

 似たようなことは、中国にも言えます。この国も、アジア的な専制帝国の伝統しか持っていないし、たとえば独裁者の毛沢東は、スターリン顔負けの暴政を敷いたにもかかわらず、第二次大戦やその後の内戦で勝利者となったために、英雄として美化されています。我々は、おそらくは中国や中国人のこともちゃんと理解できていないのです。

 ロシアと中国は、今では良く似た価値観を共有する同志みたいなものですが、その価値観は我々のそれとは大きく食い違っていることを認識するべきでしょう。

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