歴史小説家 三浦伸昭の歴史ぱびりよん

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歴史論説集

概説 太平洋戦争

第五話 架空戦史vs史実

 またもや番外編なのですが、私は、現在我々が知っている歴史が、どのように作られたのか興味があって、いろいろと考えたことがあるのです。

  一部の人の間で大人気の「架空戦記」(本屋さんに行くと、いっぱい並んでいますね)は、恐らく捏造された歴史の上に立っているのでは?と思ってちょっと書きます。

  私自身は、「架空戦記」ってあまり読んだことがないのです。せいぜい檜山良昭さんのを何作かな。ただ、「架空戦記」が好きな友人は大勢いるので、耳情報はたくさん入るので、要領は分かります。

  また、光栄のパソコンゲーム「提督の決断」をプレーしたこともあります。あのゲームは、歴史シミュレーションと銘打っていますが、大嘘ですねえ。大戦中の日本が抱えていた問題点(例えば、脆弱なシーレーン、情報技術の遅れ、官僚の分立と指揮系統の混乱)を、いっさい無視していて単純な戦闘だけが描かれます。

 しかも、日米の国力比が1:1.5。信頼できる統計データは、単純比較で1:20だと示しているのに、ここまで歴史を歪めて良いのか?歴史シュミレーションというより、もはや架空戦記ゲームですねえ、あれは。

 というわけで、どうやら多くの若者は、大戦中の日本やドイツの能力を実像の10倍くらい過大評価している可能性があります。その理由について絞殺(ぐえー)、もとい考察したいと思います。

  (1)アメリカのプロパガンダ

  アメリカにとって、あの戦争の本音は、次のようなものでした。

  「世界市場を牛耳るために、日独を罠にはめて戦争を拡大させ、洪水のような武力で押し潰してやった!」

 でも、国民や外国の手前、世界の盟主が、本音を言うわけにはいきません。ですから、次のようなプロパガンダをうったのです。

  「世界征服を狙う、凶悪無比な日独の野望を阻止すべく立ち上がった正義の国アメリカは、艱難辛苦を乗り越えて敵の本土に攻め込み、ようやく打ち勝ったのだ!」

 何か、仮面ライダーのあらすじみたいですねえ(笑)。このプロパガンダの過程で、日独の能力が誇張されたわけです。実際は位攻めだったのに(アメリカ軍は、1943年以降、日独に一度も負けていない。悉く、圧倒的武力で押し流している)、苦戦の連続だったかのようなイメージを世界に流布したのでした。

  もちろん、ハリウッド映画やTVが、この傾向を助長しました。政府の方針に屈したというよりは、日独が強かった方が、ストーリーが盛り上がるからでしょう。最近の「プライベート・ライアン」なんかでも、随所に誇張が感じられましたねえ。

(2)戦後の歴史研究のゆがみ  

 あの戦争は、つい 60年程度昔の事なので、旧日独軍の利害関係者が大勢生き残っています。彼らは、負けた悔しさゆえか、「ああすれば勝てた」とか、「本当は勝ちなんだ」って事を良く言います。これを歴史家が真に受けて本にしちゃうと、それが通説になってしまいます。

 一番極端なのが、旧ドイツ軍でしょう。彼らは口を揃えて「ヒトラーのバカが、我々の作戦に口を挟まなければ、今ごろ世界を征服してたんだ」ってな事を言いまくります。でも、これはたいへんな勘違いだと思うのですよ。ヒトラーが口を挟んだのは素人の浅はかさではなくて、暴走を企む軍部に対して文民統制(シビリアンコントロール)を効かせようとしたのだと思います。これは、政治家が果たすべき当然の責務であって、戦争マニアの干渉とは性質が違うのだと思うのですがねえ。

 私は、ドイツ軍の緒戦の大勝利は、全てヒトラーの戦略の賜物だと考えています。どうしてそう思うのか というと、ドイツ軍の勝利は、全て「奇襲攻撃」によるものでした。対ポーランド、対デンマーク&ノルウェー、対フランス、対ユーゴスラビア、対ソ連。悉く奇襲が決まったゆえに、優勢に戦局を進めることが出来たのです。そして、奇襲のお膳立てをしたのは、政治家であるヒトラーでした。 私見ですが、奇襲というのは騙まし討ちでしょう?何度も何度も成功させるのは難しいと思うのです。なぜなら、一度でもやってしまうと、周囲がそういう目で見て警戒するでしょう?しかし、ヒトラーはそれをやり遂げたのだから大したもんです。よほど、相手の思考の裏を読む能力に優れていたのでしょう。・・・嫌な奴ですねえ(笑)。

 ここで疑問に思うのは、どうしてヒトラーが奇襲にこだわったかです。

 これだけ何度も奇襲を成功させるためには、並々ならぬ努力と苦労をしたはずなのですが、どうしてそんなに奇襲をしたかったのか?諸般の状況を考慮すれば、答えは一つしかありません。

 ドイツ軍は、「奇襲を成功させなければ勝てないような弱い軍隊だった」のです。

 ソ連に対する奇襲が、画竜点睛を欠く結果になったことを知ったヒトラーは、こう呟いたといいます。

 「だめだ、もう勝てない・・・」

 この翌日に、日本軍の真珠湾攻撃があったのは、歴史の皮肉かもしれませんね。

 ヒトラー無能説がしきりに囁かれる理由は、ヒトラーと軍部がたいへんに仲が悪かったからです。当時の軍部の要職は、全て貴族階級が独占支配していました。彼らは、平民あがりのヒトラーをバカにして軽蔑しきっていたのです。それゆえ、ヒトラーの死後になってから、死人に口なし!とばかりに彼に全ての責任を押し付けたというわけです。

 こうして、実際には「奇襲でなきゃ勝てない」ドイツ軍が、「ヒトラーが邪魔しなけりゃ世界征服できた軍隊」に格上げされちゃったのです。

 歴史というのは、こうして造られていくのです。

 だから我々は、歴史上の日本軍とドイツ軍を、極端に過大評価している可能性が大きいのです。

 しかしこれは、歴史を見る上で正しい姿勢ではないと思います。心が痛くなるとしても、常に真実を見ていく姿勢を貫かないと、また同じ過ちを繰り返すからです。

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