歴史ぱびりよん

第六話 日米の基本戦略比較

気分で、「ミッドウェー後の日米戦略比較」をやりましょう。

まずは、アメちゃんの戦略。

アメリカは、何をどうしたって負ける気遣いが無いので、戦略のオプションは、極めて幅広いものがありました。

一番犠牲の少ない勝ち方は、「兵糧攻め」です。すなわち、潜水艦をウジャウジャ造って日本近海に出没させ、日本に近づく商船やタンカーを片端から撃沈しちゃうの。日本は、戦略物資はおろか、食糧すら完全に自給自足できない島国なので、この作戦を執拗に繰り返せば倒せるのでした。

しかし、こんな陰湿なやり方では、アメリカの「正義」のイメージが傷つくし、アメリカ国民だって納得しないでしょう。軍需産業だって臍を曲げます。それで、海軍が中心となって、次のルートで日本本土を目指すことに決めたのです。

ソロモン諸島→南洋諸島(サイパン、グアム)→小笠原諸島→東京

もちろん、潜水艦作戦も同時並行で進めるので、アメリカ艦隊が小笠原に近づく頃には、日本の交戦能力は枯渇しているはずでした。

ところが、陸軍がチャチャを入れたのです。マッカーサー率いる陸軍は、海軍だけに功名を立てさせるのが不満だったので、別ルートで日本本土を目指すことを提案しました。すなわち、

ニューギニア→フィリッピン→台湾→沖縄→九州

というルートを進もうと言うのです。まあ、これには政治的な理由もあるのです。マッカーサーは、かつて日本軍にフィリッピンを追われたときに、「I shall return」と言って去ったのです。この公約(?)を守っておかないと、後に大統領選に打って出たときに不利になると考えたらしいのです。マッカーサーは、軍人というより政治家タイプの人間でした。だから、何がなんでもフィリッピンに攻め込みたかったのです。

ルーズヴェルト大統領は、不自由な体(小児麻痺で足が弱かった)を押して、最前線で海軍と陸軍の調停に乗り出しました。各国の首脳は、みなこうして軍部の頭を押さえ、積極的に調停をしていました。こういう仕事を政治家がしなかった国は、我が日本だけでした。まあ、今でも同じようなものですがね。

で、ルーズヴェルトは、海軍の案を支持して、陸軍を宥めようとしたのです。ところが、マッカーサーが激怒して、言うこと聞かない!さんざんにスッタモンダした挙句、結局、両方やることに決まっちゃいました。つまり、南洋諸島ルートとフィリッピンルートの二本立てで行くことにしたのです。

それにしても、アメリカは、ヒトもモノもカネも有り余っているから、そういう事ができるわけで、なんとも贅沢な話ですね。 さて、我が日本はどうか?

そもそも、確固たる戦略が存在しませんでした。

とりあえず、南方の資源地帯を押さえるまでは、陸海軍ともに協調して頑張ったのですが、この目的が達成されてしまうと、その後の方針について議論百出して収拾がつかなくなったのです。もちろん、調停してくれる政治家なんて、日本にはいませんでした。

陸軍は、いきなり太平洋方面から兵力を引き上げると言い出しました。呆れたことに、東条首相もこれに同意したのです。陸軍は、どうしてそんな事を言い出したのか?彼らは、実はアメリカ軍と戦争する気が無かったのです。南方資源地帯を制圧するまで、「海軍のために兵を貸していた」という意識でした。そして、義理が立ったから後は知らない、というわけです。彼らは、南方から引き上げた兵力で、今度こそ中国を叩こうと考えたのでしょう。しかし、これでは対アメリカ戦の計画が立ちません。

海軍は海軍で、内部で意見が割れて収拾が付きませんでした。まず、山本に代表される急進派は、「長期戦になったら勝てないので、今のうちに積極的に打って出よう」と主張しました。その急進派の中でも、ハワイ方面を攻めようという人と、オーストラリア方面に出て行こうという人が対立していたのです。前者の主張がミッドウェー海戦で実現し、後者の主張が珊瑚海、ひいてはガダルカナル戦へと発展していくのです。

さて、海軍保守派は何を考えていたのか?「せっかく資源地帯を手に入れたのだから、後はここをしっかりと守って、呑気に世界の形勢を観望しようぜ」と考えたのでした。どうやら、アメリカ軍との実力差を考えていなかったようですね。時間が敵になる、という発想は無かったようです。

山本は、ミッドウェー作戦を発動するために、たいへんな苦労をして根回ししました。彼は「この作戦が認められないなら俺は辞職する!」とまで言って、ようやく実現に漕ぎつけたのでした。

日本軍内部の見解と意見の対立は、考えられないほど深い混乱状態にあったのです。

海軍の首脳陣は、アメリカ軍の反攻は、1943年以降になると思い込んでいました。根拠はありません。気分でそう思っていたのです。

しかし、アメリカ軍の猛反攻は、1942年の8月に始まりました。

ガダルカナルの戦いです。

日本軍は、完全に不意を打たれたのです。