歴史ぱびりよん

第十三話 人種差別

第二次大戦の原因としては、様々なものが考えられます。

先に述べた「経済」の理由が、最も重要だと思うのですが、人間はパンのみで生きるわけではありません。 あの戦争が、あれほど残酷で惨たらしいものとなった最大の理由は、人種的な偏見にあるものと考えられるのです。

人種差別は、現代でもあります。しかし、あの当時の差別とは比較になりません。これには、人類学者の責任が大きく問われます。

20世紀初頭は、情報技術が大きく進歩したため、人々は急激に雑多な情報の嵐に放り込まれ、精神的に不安な状態になっていました。彼らは、全世界の概要を一言で説明してくれるような、耳ざわりの良い理論を希求したのです。

その一つが、マルクスが創始した「社会主義」です。すなわち、マルクスは人類の歴史を、階級闘争の歴史と位置付けました。この世には、資本家と労働者の2種類しかいないというのです。そして、人類の歴史は、この対立を解消する形で進んでいくはずだと予言しました。 今から思えば笑止ですが、当時は、その壮大な視野と、何よりも単純さが、広く大衆に受け入れられたのです。 これが、ソビエト連邦や中華人民共和国の伝統へと昇華していきます。

次に持て囃されたのが、「地政学」です。すなわち、人類の歴史や文化は、置かれた地理的条件によって規定されるというのです。私見ではかなりまともな内容だと思います。ただ、専門家の多くがナチスに加担した事もあって、戦後、急激にすたれてしまいました。

最後に、もっとも重要なイデアを紹介しましょう。すなわち、「人種学」です。意外と知られていないのですが、実は20世紀初頭において最も影響力を持った学問だったのです。

どういう内容か簡単に説明すると、ダーウインの進化論を人種に応用するものでした。

つまり、人種の違いというのは、それ自体が「人間の質」を規定するという恐ろしい思想だったのです。すなわち、「生物学的に」優等民族と劣等民族が存在し、優等民族が劣等民族を滅ぼしたり搾取する事が、人類の健全な「進化」に繋がるというのです。

物凄く単純な考え方ですが、当時の大衆には広く受け入れられたのです。

この考え方を理論的に精緻にしたのが、ナチズムです。ヒトラーは、己の残虐行為が人類の進歩に貢献するものだと、大真面目に信じていたようです。彼は、遺言書の中で、最後までユダヤ人の撲滅を訴えていました。彼は、どうしてユダヤ人を憎んだのか?憎んでなどいなかったのです。ただ、自分なりの正義を行使していただけなのです。あのような有能な政治家が、狂気の思想に取り付かれていたのは、人類にとって大きな悲劇でした。

しかし、ヒトラーだけではありません。世界中の有識者が、程度の差はあれ、「人種学」の狂気に取り付かれていました。

ルーズヴェルトは、外国人と会見するとき、相手の耳朶を注視していたといいます。耳朶の形状で、民族の優秀さが窺えるという学者の論文が、一世を風靡していたからです。 アメリカは、戦争中、在米日系人を強制収容所に押し込めて、その財産を白人たちで無造作に分配してしまいました。アメリカは、ドイツ人やイタリア人に対しては、そのような措置は採りませんでした。日本人に対してだけです。アメリカは、それ以前から、移民を制限したり財産を凍結する法令を出して、日系人を弾圧していました。これは明らかに、黄色人種に対する差別でしょう。

ソ連のスターリンも、ロシア国内の他民族に対して残酷な弾圧を行なっていました。中国でも、毛沢東が同じ事をしましたね。

もちろん、日本だって同じです。「大和民族」の優秀性をひけらかし、朝鮮人をチョン、中国人をチャンコロと呼んで、差別していました。満州国では五族協和が謳われましたが、実質的には死文でした。異民族には、残酷な差別を加えていたのです。

でも、世界中がそうだったのです。

ドイツや日本ばかりが悪く言われるのは、「戦争に負けたから」です。勝てば官軍なのです。連合国による人種差別は、歴史の闇に葬り去られました。

あの戦争が、人類史上最大の殺戮劇になった理由が、20世紀初頭の異常な学問の潮流にあったということは、極めて重要なことだと思います。

そういう意味でも、学問やイデオロギーは、極めて大切なものなのです。