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映画評論

映画評論 PART9

ザ・キープ  THE KEEP

制作:イギリス

制作年度:1984年

監督:マイケル・マン

 

(あらすじ)

 1941年春、ナチスドイツの一個分隊が、来るべき独ソ戦争に備えて、トランシルバニアの古い城塞に駐屯した。しかしそこは、謎の魔物の棲家であった。

 次々に部下が惨殺される状況を憂えたボーマン大尉(ユルゲン・プロホノフ)は、ユダヤ人の考古学者クーザ教授(イアン・マッケラン)に協力を要請する。

 城塞の奥で謎の魔物と対面を果たしたクーザは、しかし、魔物と力を合わせてナチスを滅ぼすことを夢想し始めた。彼にとっては、魔物よりもナチスの方が、遥かに忌まわしき存在だったのだ。

 やがて現れた謎の男グレーケン(スコット・グレン)を巻き込み、ナチスと魔物ラサロム、そしてクーザ教授の間で、熾烈な戦いが展開されるのであった。

 

(解説)

 「ドラキュラZERO」を採り上げたついでに、類似テーマの傑作を紹介。

 物語の舞台がルーマニアで、「巨悪に直面した人物が、悪の力を借りて立ち向かおうとする」筋立てがよく似ている。しかし、「ザ・キープ」の方が、品質は遥かに上である。

 この映画の原作は、アメリカのホラー作家F・P・ウィルソンの同名の小説である。私はこの作家が大好きで、日本語に翻訳された著作はほとんど読んでいる。彼の作風はスティーブン・キングに似ているのだが、キングよりも「B級」の疾走感が数倍マシで、どうせ幼稚なお伽噺(失礼!)を作るのなら、変に文学ぶったキングよりも、ウィルソンの書き方の方が数段優れているように思う。それなのに、なぜ天才作家ウィルソンが日本で無名なのか、さっぱり理解できない!

 などと、怒ってみても仕方ない。

 さて、「ザ・キープ」では、ナチスの暴威に直面したクーザ教授が、ナチスを滅ぼす唯一の手段として凶悪な魔物を頼ろうとする。

 物語の舞台となった1941年春は、かのナチスドイツの絶頂期である。ヒトラー総統は、ヨーロッパ大陸とアフリカ北部のほとんどを連戦連勝の上で征服したばかりである。しかも、独ソ戦争は始まる前で、アメリカも参戦前。そして、唯一の自由主義陣営であったイギリスは、ほとんど負けそうになっている。そんな中、ユダヤ人は皆殺しになろうとしている。

 こういった状況を考えるなら、ユダヤ人のクーザ教授が、邪悪な魔物の力を借りたくなった心境には、非常に説得力がある。だからこそ、魔物ラサロムの邪悪さを知りつつも、彼に肩入れしようとする教授の葛藤や苦しみが、魅力溢れるドラマとなる。

 そうなのだ。「巨悪に直面して悪の力を借りる」物語は、このように作らなければならないのだ。「ドラキュラZERO」の製作者に、これの万分の一の見識があればなあ(泣)。

 もっとも「ザ・キープ」は、映画自体は予算や尺の関係でかなり舌足らずである。原作を未読の観客は、ラストのバタバタが何を意味するのか、よく分からなかったのではないだろうか?

 それでも、キャスト(みんな主役級!)は無駄に豪華だし、映像美も非常に印象的だった。個人的に、嫌いになれない映画である。

 っていうか、私は「魔物」と「ナチス」がどちらも大好きなので、一本の映画の中で両方見られたのが嬉しかったりする(笑)。

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