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映画評論

映画評論PART11

ハクソー・リッジ   Hacksaw Ridge

 

制作:アメリカ

制作年度:2016

監督:メル・ギブソン

 

(あらすじ)

 19455月の沖縄。デスモンド・ドス(アンドリュー・ガーフィールド)青年は、殺人を禁じるセブンスデー・アドベンチスト教会の熱心な信者であり、武器を手に持つことが出来ない。そこで、救護兵として大活躍。前田高地(別名:弓鋸高地=ハクソー・リッジ)の激戦で、数多くの同胞の命を助けたのだった。

 

(解説)

 たぶん駄作だろうと思ってノーマークにしていたのだが、仕事の提携先の保険外交のお姉さんが妙に熱心に薦めるので、映画館に観に行った。

 事前の予想よりは良い内容で、「クリント・イーストウッドかクリストファー・ノーラン辺りが撮っていたら、きっと名作になったのだろうな」と思わせる出来だった。メル・ギブソン監督だったのが残念である。

 とにかく、戦場や戦闘シーンにおけるリアリティ無視は凄まじいばかり。人間ドラマ部分の良質さを、全て帳消しにしていた。そういう意味では、『この世界の片隅に』によく似た種類の残念さである。

 まず、前田高地に上るための縄バシゴが酷い。200×100メートルくらいの超巨大なのが、一つだけドカンと架かっていて、アメリカ兵はこれを登らないと戦場に行けない仕様だ。インパクトが大きいので、映画的視覚効果はナイスだけれど、そもそもどうやって架けたのだ、これ?仮にヘリコプターが実用化されていたとしても、こんなに巨大なのを崖の上に引き上げるのは不可能だぞ。ましてや、日本軍が妨害すること必至の最前線なのだし。

 また、日本軍はしばしば崖の上を実効支配するのだが、どうしてこの巨大ハシゴを切り落とさないのだろうか?日本兵は、崖の上から銃を撃ったりするのだが、そんなことするくらいなら、目の前にある巨大ハシゴをナイフで切り落とせば、ぶら下がっているアメリカ兵を一気に斃せるだろうに。この戦場を完全に支配できるだろうに。

 実際の歴史はどうかと言えば、アメリカ軍は、映画よりかなり小さな縄バシゴを複数個所に架けたのだ。それならば、ロッククライミングが得意な力持ちの兵隊が何人かいれば設置できるだろう。日本軍も、容易にこれらを発見できなかっただろうし、仮に発見して切り落としたとしても、すぐに元通りに設置されたことだろう。映画も、そのように描けば良かったのに。

 戦闘シーンも無茶苦茶である。マウンテンゴリラみたいな巨大な体格の日本兵が、洞窟から何千人も何万人も湧いてきて、人海戦術でアメリカ兵をタコ殴りにするのである(笑)。あの当時のあの状況の日本人が、アメリカ人より体格が良くて健康的だなんて、そんなバカな。そもそも、人海戦術を取れるほどの人数はいなかったはずだぞ。

 実際の戦場はどうだったかと言えば、日本軍は濃密な火力でアメリカ軍を圧倒したのである。硫黄島の戦いでもそうだったのだが、この時期の日本軍は本国からの武器弾薬の輸送が容易になっていたので(距離が近いから)、戦場によっては、物量を誇っているはずのアメリカ軍以上の高密度で火力を集中できたのだ。沖縄戦では、前田高地がまさにこういった戦場で、アメリカ軍は巧妙に偽装された(日本軍は、陣地構築の名手だった)陣地から撃ち込まれる膨大な火力によって甚大な損害を受けたのだった。映画も、そのように描けば良かったのに。

 主人公の異常な超人ぶりにも興ざめである。映画の中のドスは、日本軍が完全に支配する崖上の戦場で、飲まず食わず眠らず排泄せずに、一晩掛かりで何十人もの負傷兵を救護する。背負ったり引きずったりして、例の巨大ハシゴから下ろすのだ。まるで、アメコミのヒーローであるから、感動の美談にしてはリアリティ無さすぎである。平凡な青年が、たった一晩でそこまで働けるか?最後の方になるまで日本軍に見つからないのも不自然すぎるし。

 ドスが、沖縄戦で75名の負傷兵を救ったのは事実だろうが、たった一晩でやったわけではないだろう。もうちょっと、控えめに描くとか、あるいは数日間の出来事に分けて描いて欲しかった。

 以上、あまりにもリアリティを無視した描写がつるべ打ちになるので、途中から全く物語に感情移入できなくなった。

 繰り返しになるけれど、クリント・イーストウッドかクリストファー・ノーラン辺りが撮っていたら、きっと名作になったのだろうな。メル・ギブソンは、『ブレイブハート』で監督業を引退すればよかったのに。

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