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映画評論

映画評論PART12

小さな同志  Seltsimees Laps

制作:エストニア

制作年度:2018年

監督:モニカ・シーメッツ

 

(あらすじ)

 スターリン統治下のエストニア。優しい両親とともにタリン郊外で幸せに暮らす6歳の少女レーロ(ヘレナ・マリア・ライズナー)は、ある日突然、家宅捜索に来た秘密警察によって母を連行されてしまう。

 「良い子にしていれば、すぐに帰って来るわ」という母の言いつけを信じて健気に振舞うレーロだったが、母は一向に帰って来ない。

 それどころか、秘密警察の魔の手は、残された父親(タンベット・トゥイスク)や彼女自身にも迫るのだった。

 

(解説)

 スターリン繋がりで紹介する。

 2019年の「EUフィルムデイズ」で鑑賞した。心に残る大傑作映画だったので、ぜひもう一度観たいのだが、日本語版DVDになっていないのが残念である。

 後に作家となった、レーロ・トゥルンガルの自伝が原作。

 小国エストニアは、第二次大戦後にソ連の属国に組み込まれ、そしてスターリンの暴政の直撃を受けた。レーロの母親は、小学校の校長先生として「子供たちに愛国教育をした」ために強制収容所送りになる。しかし、そんな事情は6歳の少女には理解できない。

 レーロの父親は、元オリンピックの陸上競技のメダリストで、その「国際的傾向」と「愛国的傾向」から秘密警察に目を付けられる。この種の官僚独裁の恐ろしさは、ノルマが暴走する点である。要するに警察は、得点稼ぎのために無実の個人を犯罪者に仕立てようとするのだ。父親は、愛する娘のために必死に我が身を守ろうとするのだが、幼いレーロは父の苦衷を理解できない。

 「ママが出て行ったのは、パパのせいだ!パパがお風呂に入らなくて臭いから、ママは帰って来ないんだ!」などと彼女が父を難詰するシーンは、コメディの要素をはらみつつも、本当に痛々しい。

 タイトルの『小さな同志』は、レーロが劇中でピオネールに憧れて、この団体の子供たちから「同志(タワリシ)」と呼ばれたがることから来ている。ソ連におけるピオネールと言うのは、ナチスにおけるヒトラー・ユーゲントみたいなもので、すなわち子供たちを共産主義に忠誠を誓うように洗脳する組織である。カッコいい制服を着て、体育会や音楽会を規律正しく行うので、幼い子供はみんな幻惑されて憧れるのである。そんなレーロを、父は悲しく見つめる。

 もっとも、父が反共の疑いを持たれている中では、レーロはピオネールに入団出来ない。こうして、無慈悲な警察によって次第に追いつめられる親子だったが、スターリンの死によって救済が訪れる。

 ついに母が解放された。鉄道駅まで迎えに行く親子。数年ぶりに顔を合わせる母と娘だが、お互いに強張った表情で顔を合わせようともしない。家に向かって歩きながら、少しずつ身体を近づかせ、ついに手と手が軽く触れあってラスト。

 私は、このシーンで不覚にも涙が止まらなくなった。なぜなら、「エモーショナルなBGMを流して、登場人物が一斉に抱き合って号泣するような陳腐な演出(特に日本映画の)」に辟易していたので、このリアルな演出に心から感動したのだ。

 実際、親子とはいえ、何年も顔を合わせていないとこうなるだろう。「会えるのが信じられない」、「記憶の中の姿と違う」という思いも交錯するだろう。これからの母と娘の姿を想像できる余韻も楽しい。

 このラストシーンだけでも、もう一度観たいものだわい。っていうか、レーロちゃんが無茶苦茶に可愛かったので、もう一度会いたいんだよー(ロリ萌え~!)。

 ともあれ、総人口わずか100万人前後の小国エストニアは、IT技術のみならず、映画製作の世界でもハイレベルなのだった。

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