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映画評論

映画評論PART12

英国総督 最後の家 Viceroy’s House

制作:イギリス

制作年度:2017年

監督:グリンダ・チャーダ

 

(あらすじ)

 1947年、イギリス領インドに、最後の総督ルイス・マウントバッテン卿(ヒュー・ボネビル)が着任した。

 彼の任務は、インドを独立させること。しかし、この国はヒンディー教勢力とイスラム教勢力に分裂しているのが実情で(イギリスが統治しやすくするために、わざとそう仕向けた結果だが)、独立は悲惨な混乱を招くことが予想された。

 副王マウントバッテンは、様々な立場の独立派指導者を招いて調整を図るのだが、結局うまく行かない。ついに、強引にインドとパキスタンを分離独立させてしまったことから大虐殺が勃発してしまう。

 心を痛めるマウントバッテンだったが、これらは全てイギリス政府の想定内事項であった。

 

(解説)

 新宿武蔵野館で観た。

 インド独立を描いた壮大な映画。牧歌的で楽観的な雰囲気で始まった物語が、次第に恐怖と憎しみと殺りくに埋め尽くされていく。

 ヒンディー教徒の青年ジートとイスラム教徒の少女アーリアといった、架空の人間たちを絶妙に配して、恋愛ドラマを展開させる演出がナイス。そして、ガンジーやジンナーやネルーは、本物そっくりの俳優が演じていて、彼らが登場するたびに拍手しそうになった。

 劇中のマウントバッテン卿とその妻子は、自ら主体的に行動して、インドの人々を幸福に導こうと懸命に努力する。しかし、彼らの存在自体が、チャーチルらイギリス本国の黒幕たちの傀儡に過ぎなかった。そんなイギリス本国の目的は、インド独立後もこの地に政治的経済的な影響力を残すことにある。そのために、インドとパキスタンを並置して対立させた上で、弱い方(パキスタン)に入り込んで利権を牛耳ろうとする。当然、そのために引かれた国境線は恣意的なものであり、多くのインド人が難民や暴徒と化して死体の山が積み上がるのだが、冷酷なイギリス政府はそんなことには興味がないのだった。

 これはイギリスが製作した映画だというのに、劇中のイギリス政府の悪党ぶりが凄まじい。そのため、「そんな邪悪な陰謀など有り得ない!証拠がない!」などと、鑑賞後に激高して議会で問題にした英国議員もいたらしい。

 エンドロールの中で紹介されるのだが、チャーダ監督はインド系で、実際に彼女の親世代がこの混乱に巻き込まれて悲惨な目にあっているのだ。そんな彼女の恨み節を支援して、スポンサーになったBBCが偉い。どこかの某NHKとは、政治意識の心構えが違うのだな。

 ただし、違和感を覚えたのは、マウントバッテン卿とその妻子が、「善良無比で世間知らずの坊ちゃん嬢ちゃん」として描かれていたこと。マウントバッテンは、仮にも第二次大戦でビルマ方面軍の最高司令官を務めあげ、日本軍をコテンパンに叩きのめした男である。たとえば「インパール作戦」の時は、わざと負けたふりをして日本軍を死地に誘い込み、一網打尽に全滅させると言う高等戦略を主導した人物だ。つまり、実際のマウントバッテン卿が善良なだけのお坊ちゃんだったはずはないのだが、彼とその家族を善人に描かないと、登場するイギリス人全員が悪党になってしまうので、さすがにそれは監督もやりたくなかったのだろうね。

 血まみれで悲惨な方向に突進していくストーリーは、しかしジートとアーリアの奇跡の邂逅でハッピーエンドを迎える。

 映画として良く出来ていたけれど、歴史の勉強にもなる良作であった。特に、無批判に褒められる事が多い戦後イギリスの植民地政策に、深刻な疑義を叩きつけた功績は大きいと思う。フランスやオランダよりは大分マシだろうけど、イギリスだけが善良であったはずは無いのだから。

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