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映画評論

映画評論PART12

バイス  Vice

制作:アメリカ

制作年度:2018年

監督:アダム・マッケイ

 

(あらすじ)

 1970年代のアメリカ。粗暴な田舎の青年ディック・チェイニー(クリスチャン・ベール)は、恋人から結婚の条件として金持ちになるよう強要されたため、政治家を目指す。

 ついに、共和党の古だぬきラムズフェルド(スティーブ・カレル)に気に入られたことから運が開けた彼は、ブッシュJr.(サム・ロックウェル)政権の副大統領となった。

 やがて、愚かなブッシュを傀儡にして、チェイニーは中東全土を戦火に包む。その目的は、あくまでも私利私欲であった。

 

(解説)

 友人たちと、日比谷ミッドタウンのTOHOシネマで観た。

 2003年に「イラク戦争」を巻き起こし、その後の中東情勢を大混乱に陥れ、全世界を悪夢のどん底に叩き落した政治家ディック・チェイニーの伝記映画。

 アメリカ映画にしては珍しく、知的なブラックコメディである。粗暴で無教養な田舎者が、私利私欲だけで副大統領に成りあがり、私腹を肥やす目的で戦争を引き起こす恐怖が描かれる。これはもちろん、架空の物語ではなく、全くの事実である。そういう意味では、ドキュメンタリー映画として観ることも出来る。

 主演クリスチャン・ベールは、自らの体重を大幅に増量して、特殊メイクでチェイニーを演じた。中盤以降は、目の部分しか本人の面影が見えない(笑)。

 私が大好きなサム・ロックウェルは、ほとんど地のままでブッシュJr.を演じきった。劇中で披露されるブッシュくんの間抜けなトークは、もしかするとサムのアドリブだったかもしれない。

 主人公たちが存命中のこの手の歴史映画は、名優たちのそっくりさん演技合戦を見るのが楽しいのだ。

 この物語のナレーターは、「僕は、市井の一般人ながらチェイニーと一心同体だ」などと、意味不明なことを名乗るのだが、映画のラストで、チェイニーに臓器移植するために延命措置を打ち切られた民間人であることが明らかになる。彼の肉体の一部は、確かにチェイニーと一体になったのである。これは、なかなかエグいブラックジョークだが、アメリカの格差社会というか、歪んだ社会構造をアピールする上で良い演出だと思った。

 タイトルのViceは、副大統領の「副」という意味だろうが、単独でも「悪」という意味になるので、ダジャレ混じりのダブルミーニングだ。

 一緒に鑑賞した友人たちは、「アメリカがこんなに邪悪な国だとは知らなかった」と愕然としていたが、平均的な日本人は、ぼーっと生きていたらそんな感じだろう。日本はアメリカの植民地だから、アメリカから流れて来る報道は、アメリカの不利になることは伝えないのである。こちらから積極的に情報を取りに行かないと、すぐに騙されてしまう。

 それでも、アメリカ自身がこのような映画を作るところに、まだ希望がある。良心的で正義感溢れる映画作家たちが、アメリカの民主主義を必死に守っているのである。

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