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映画評論

映画評論 PART1

遠すぎた橋 A bridge too far

制作;アメリカ、イギリス

制作年度;1977年

監督;リチャード・アッテンボロー

 

(1)あらすじ

 1944年9月の西部戦線。ノルマンディーの戦いに完全勝利した連合軍は、しかしその後の補給不足に悩まされ、ドイツ本国への突入を見合わせていた。

 しかし、功名心にはやるイギリスのモントゴメリー将軍は、自らが担当するオランダ戦線で、起死回生の奇襲攻撃を加えようとする。すなわち、大規模な空挺攻撃でオランダ各地の橋梁を押さえ、そこを戦車部隊が電撃突破して、一気にライン川を越えようというのだ。いわゆる「マーケットガーデン作戦」である。

 作戦は、ろくな情報収集も情勢分析もなされぬまま、ノリと勢いだけで遂行される。しかし、落下傘部隊をオランダで待ち受けていたのは、たまたま再編成中だったドイツ最強のSS機甲師団であった。各地で孤立して、各個撃破されていく落下傘兵たち。これを救援すべくベルギーから進撃したイギリス戦車部隊は、作戦を読み切ったドイツ軍の待ち伏せ攻撃を受けて苦戦に陥る。

 結局、戦線の最深部に降下したアルンヘム橋のイギリス空挺部隊は、壊滅状態になって投降した。大勢の部下を犠牲にしてイギリスに帰還したアーカート少将(ショーン・コネリー)は、作戦計画の無謀さについて上司を難詰する。しかし、ブラウニング中将(ダーク・ボガード)は、冷たくこう言い放った。「君、あれは最初から遠すぎた橋だったのだよ」。

 その間、戦場になったオランダの街や村では、罪のない住民たちが廃墟の中で苦しみ続けるのであった。

 

(2)解説

 史実を下敷きにした戦記映画としては、私が知る中では最高傑作です。

 本作品は、「マーケットガーデン作戦」という、失敗に終わった大作戦をテーマにすることで、軍隊という名の官僚機構の無情さと愚かさを克明に描き出します。また、戦争に巻き込まれて犠牲になる多くの住人の苦衷も描きます。

 音楽は勇ましいし、スター俳優は大勢登場する(ショーン・コネリー、ロバート・レッドフォード、ダーク・ボガード、ライアン・オニール、ジーン・ハックマン、マイケル・ケイン、アンソニー・ホプキンス、マクシミリアン・シェル、ジェームズ・カーン、エドワード・フォックス、リヴ・ウルマンといった物凄さ!)のですが、物語は終盤に向けて次第に哀調を帯びます。ラストシーンは、住居を戦災で奪われた家族が、手押し車に家財を積んで歩み去る場面です。

 言葉に出さずに「反戦」を訴えかけるこの映画は、ハリウッド作品では最高の戦争映画ではないかと思います。

 また、イギリス軍の将兵はイギリス人俳優が、アメリカ軍の将兵はアメリカ人俳優が、ドイツ軍の将兵はドイツ人俳優が演じることで、民族ごとの個性や文化の違いがちゃんと描けていて興味深かったです。

 言語も、英語、米語、独語が飛び交います。これは、当然といえば当然のようですが、ハリウッド映画や日本映画は、こういった配慮をしないものが意外と多いのです。 たとえば『スパイゾルゲ』という映画は、日本映画だというのに、ソ連のスターリンが側近と英語で会話したりして気味悪かったです。篠田正浩監督は、ロシア語という言語の存在を知らないのだろうか?

 リアル志向の『遠すぎた橋』ですが、欠点もあります。劇中で使用される戦車などは、明らかに映画撮影用の改造車なので、リアリティに欠けています。

 また、この映画では、広大な戦場に散らばった各部隊の戦況が次々に語られるのですが、観客に地図がまったく提示されないので、途中で、どこの部隊がどこで戦っているのだか訳が分からなくなります。この映画を観るときは、事前に地図を片手に予習をして行ったほうが良いかもしれません。というより、スクリーンの片隅に、簡単でいいから地図を定期的に表示するなどの配慮をして欲しかった。日本でテレビ放送されたときは、さすがに局側がそういう配慮をしたようですが。

 こういうことを差し引いても、ハリウッド製だけにお金も十分にかけてあって素晴らしいです。空挺部隊の出撃シーンなんて、「どうやって撮ったんだろう!」と嘆息をあげてしまう大迫力です。最近は、デジタル技術の発展によって、かえってこういう興奮を味わえなくなってしまいましたからね。

 第二次大戦の西部戦線を描いた映画は、これ一本あれば十分だと思います。

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