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映画評論

映画評論 PART1

この素晴らしき世界 MUSIME SI POMAHAT

制作;チェコ

制作年度;2002年

監督;ヤン・フジェベイク

 

(1)あらすじ

 舞台は、ナチスドイツ占領下のチェコスロバキア。

 田舎町に住む、子供のいない平凡な夫婦ヨゼフとマリエは、ひょんなことから旧知のユダヤ人青年ダビドを屋根裏に匿うことになる。

 ユダヤ人を匿ったことが、占領当局に知られたら夫婦は死刑だ。しかし、マリエに横恋慕するドイツ系チェコ人のホルストは、足しげく家に出入りしてスパイのように目を光らせる。この関係に、ホルストのドイツ人上司や詮索好きな隣人がからんで、事態はますます紛糾する。

 やがて、ホルストの上司が、ヨゼフの家に同居したいと言い出した。夫婦はとっさに、「生まれてくる子供のために部屋を空けておきたい」と嘘をついて断ってしまう。彼らは、自分自身とダビドの命を守るために、どうしても子供を作らなければならない状況に追い詰められてしまったのだ。しかし、ヨゼフに子種が無いことは身体検査で明らかになっている。この絶望の中で夫婦が生き延びるためには、たった一つの手段しかない。ヨゼフは、涙ながらに愛妻とダビドを同衾させるのであった。

 やがてマリエが妊娠したため、最悪の危機は回避できた。しかし、ソ連軍の侵攻が始まり、ドイツ軍は住民を略奪しながら退却を開始。ドイツ軍の厳しい家宅捜査から夫婦を救ったのは、ドイツ市民籍を持つホルストの友情の力だった。

 やがて、この田舎町も戦火に包まれた。陣痛を始めた妻を救うために、医者を求めて街を走り回るヨゼフは、その渦中で「対独協力者」としてソ連軍に殺されかけたホルストを救出する。恩を感じたホルストは、妻を出産させた経験の持ち主だったため、医者と偽ってヨゼフの家に駆けつけ、マリエを無事に出産させるのだった。その間、ヨゼフは隣人の密告によって「対独協力者」と誤解されて処刑されかけるのだが、その疑いを晴らしてくれたのが、屋根裏から出てきたダビドだった。

 こうして、「無償の助け合い」によって、みんなが生き延びることが出来た。

 ヨゼフは、生まれたばかりの赤ん坊を乳母車に乗せて廃墟の町を歩く。すると、犠牲になった人々の霊魂が現れて、赤ちゃんに向かって笑顔で手を振ってくれた。ヨゼフは、赤ちゃんを抱え上げて、満面の笑顔で青空を仰ぐのであった。

 

(2)解説

 原題は、「みんなで助け合おう」。「情けは人のためならず」という日本の格言がしっくり来る人間ドラマである。

 登場人物の個性が実に良く描けているし、伏線の張り方も実にうまい。ユダヤ人を匿うために、お人よしの夫婦が不器用に右往左往する様子は、良質なコメディタッチで描かれているから、見ていて笑いが絶えない。

 しかも、ラストで登場人物みんなが何らかの形で嘘をついて、その嘘の力でみんなが助かって幸せになるという展開が、「性悪説」のチェコ文化らしくて実に楽しい。

 また、この作品は良質の反戦ドラマでもある。

 戦場から遠く離れたチェコの田舎町であっても、いたるところに死の臭いが漂っている。お人よしの夫婦に危機また危機が襲い掛かるのだが、どれか一つでも対応を間違えると即座に死に繋がるのであるのだから、戦争の、いやナチスの恐ろしさが肌身に感じられる。また、生き延びるために必死になる人々の姿を生々しく描くことで、人生の困難さと大切さが、スクリーンからひしひしと伝わって来る。

 私が「うまいなあ」と感じたのは、ストーリーが途中から新約聖書のモジりになる点である。夫婦の名前がヨゼフとマリエなのが、まず意味深である。そして、聖女のような心を持つマリエは、夫と同衾せずに妊娠するわけだが、これは明らかに「処女懐胎」のモジりであろう。こうして生まれた赤ちゃんは、元気な産声を上げることで、その場に居合わせたチェコ人の市民、パルチザンのリーダー、ユダヤ人、ソ連軍の兵士の顔をいっせいに喜びに包み、険悪なムードを一掃する。そして、街に出た赤ちゃんは、死んだ人々の霊魂ですら慰めてくれる。この赤ちゃんは、イエス・キリストの象徴なのだ。

 人々が互いに助け合い生き抜くことで神が生まれ、神のもとでの真の和解と平和が訪れる。なんと、前向きで明るいメッセージだろうか?

 チェコ映画の世界は、まったくもって侮ることが出来ない。そう感じた瞬間であった。

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