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映画評論

映画評論 PART2

暗い日曜日 Gloomy Sunday

制作;ドイツ、ハンガリー

制作年度;2002年

監督;ロルフ・シューベル

 

(1)あらすじ

 第二次大戦前に世界中で流行したシャンソン「暗い日曜日」は、これを聴いた者が次々に自殺を遂げることから「自殺の聖歌」と呼ばれた。この歌の製作秘話とからめて、ハンガリーの悲惨な時代を描いた名画である。

 舞台は、1930年代末のハンガリーの首都ブタペスト。ユダヤ人ラズロー(ヨアヒム・クロール)は、レストラン経営でその商才を発揮していた。彼の恋人は、店の専属歌手兼 ウエイトレスのイロナ(マロジャーン・エリカ)だ。しかし、ピアノ奏者として店に雇われた若者アンドラーシュ(ステファノ・ディオニジ)の登場が、三角関係の始まりだった。ラズローは煩悶するも、やがてこの三角関係を受け入れて、イロナをアンドラーシュと共有する。

 こうして、三人の奇妙な生活が始まった。やがてアンドラーシュは、イロナの誕生日に自ら作った曲をプレゼントする。その名は「暗い日曜日」。この曲に惚れこんだラズローは、レコード会社やラジオ局とのコネを用いて大々的に売り出した。レコードは世界中で爆発的に売れ、お陰で店も大繁盛だ。

 しかし、大不況とナチスの猛威が世界を覆う中、「暗い日曜日」を聴いた直後に自殺する者が続出した。「君のせいではない」とラズローは慰めるが、深く思い悩むアンドラーシュ。

 やがて、ハンガリーはナチスドイツの影響下に置かれた。ブダペストに駐留した行政担当官は、かつて店の常連だったドイツ青年ヴィーク(ベン・ベッカー)であった。彼は当初、命の恩人であるラズローをユダヤ人でありながら優遇するが、戦局の悪化に連れて次第になりふり構わなくなって行く。祖国の敗北を予期した彼は、富裕なユダヤ人から財産を巻き上げて、戦後に一旗あげようと目論むのだった。

 そんな中、アンドラーシュは、封印していた「暗い日曜日」を演奏するようにヴィークに強要されたため、ピアノを弾き終えた直後に拳銃自殺してしまう。そしてラズローも、ヴィークの野望の犠牲となってアウシュビッツに送られてしまう。そしてヴィークは、ラズローを救うからと嘘をついて、その見返りにイロナの肉体を弄ぶのだった。

 それから60年後、目論見どおりに大富豪となったヴィークは、懐かしさに惹かれてブダペストのあのレストランを訪れるが、料理を口にしたとたん突然の心臓発作に斃れる。喧騒の中、レストランの厨房では、老いたイロナがラズローの遺した毒薬の瓶を洗っているのだった。「暗い日曜日」を口ずさみながら。

 

(2)解説

 映画館に見に行って感動し、DVDが出てからもレンタルで二度続けて見た。

 私は、チェコに限らず中東欧の旧ハプスブルク帝国圏が大好きで、強い郷愁を感じてしまう人なのだ。ハンガリーを訪れたこともあるので、ブダペストの名所が画面に登場するだけで胸がワクワクしてしまう。

 もちろん、この映画の魅力はそれだけではない。登場人物の個性が本当に良く磨かれているし、脚本が本当に良く練られていた。俳優も日本では比較的無名な人ばかりだが、みんな演技達者なので感心した。ヒロインの見事なヌードシーンも多いし(笑)。

 劇中でもっとも印象的な人物は、ドイツ人のハンス・ヴィークだろう。彼は最初は、気弱な写真家志望の若者として登場する。イロナに恋心を打ち明けて振られると、鎖橋の上からドナウ川に身投げして、危ういところをラズローに救われるような小さな存在だった。それが、ナチスの将校になったとたんに権高になり、かつて恩を受けた人々に対しても命令口調になる。それなのに、彼はナチスの大義などまったく信じておらず、私欲を満たす手段として権力を悪用するのである。ついには、カネのために命の恩人であるラズローをアウシュビッツ行きの貨車へと送り込み、イロナに対する邪悪な欲望を成就するのだった。ベン・ベッカーは、実に見事な演技で、この複雑な人物を表現していた。

 ナチス将校の「悪」を描いた映画は数知れずあるが、この映画は最もリアルだと感じた。ヴィークのような人物は、ナチスに限らず、古今東西を問わず、世界中のあらゆるところに存在すると感じられるからだ。現在の日本にも、権力や名誉を手に入れて堕落する人間は大勢いる。

 「悪」とはいったい何か?私は、しばし思考の海に沈んでしまった。

 ストーリーは、タイトルのとおりに暗い。しかし、劇のテンポが非常に良いし、シューベル監督の技量は圧倒的な説得力でラストまで観客の興味を引っ張って行く。

 これは、万人にお勧めできる必見の映画である。

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