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映画評論

映画評論 PART2

戦場のピアニスト The Pianist  

制作;ポーランド、フランス

制作年度;2002年

監督;ロマン・ポランスキー

 

(1)あらすじ

 ユダヤ系ポーランド人のヴワディスワフ・シュピルマン(エイドリアン・ブロディ)は、ワルシャワで働くピアニストである。彼は政治に興味を持たず、家族のために黙々と仕事をこなす愚直な男だった。

 しかし、ナチスドイツの侵略(1939年9月)によって、彼と家族の生活は破壊される。仕事を奪われ困窮状態に追いやられ、ついにはゲットーに隔離されるシュピルマンとその家族。

 そこでの悲惨極まりない生活の後、希望を捨てずに頑張っていた家族を待っていたのは、無情にもアウシュビッツ行きの列車なのであった。偶然の成り行きから、ただ一人列車に乗ることを免れたシュピルマンは、ワルシャワ市内でレジスタンスに匿われる。

 しかし、ワルシャワ蜂起(1944年9月)によって、ポーランド義勇軍はドイツ軍に再び完敗し、この美しい都市は焦土と化してしまった。生き残ったシュピルマンは、ただ一人、獣のように廃墟を彷徨う。そんな彼を助けたのは、紳士的な一人のドイツ軍将校(トマス・クレッチマン)であった。

 やがて戦争は終わり、シュピルマンは再びピアノの前に座るのだった。

 

(2)解説

 巨匠ポランスキーが、実在のピアニストの手記を元に、第二次大戦下のユダヤ人の悲劇を描く。

 『シンドラーのリスト』と同じテーマであるが、この映画では、主人公を被害者たるユダヤ人に据えて、彼を次々に襲う危難を記録フィルムのように淡々と書き連ねて行く技法が取られている。そのため、中途半端にカメラワークに凝ったりするより、遥かに臨場感とリアリティがある。

  物語は、ほとんど常にシュピルマンの視点で語られるので、劇の時代背景の説明がほとんど行われない。そのため、歴史の予備知識を持たない観客は、劇中で何が起きているのか分からなかっただろう。これは、この映画の欠点といえばそう言えるのだが、あくまでも「シュピルマンの視点」にこだわって解説部分を切り捨てたポランスキー監督の勇気は賞賛されるべきだろう。

 「シュピルマンの視点」にこだわり続けることで、観客は、情報飢餓から来る閉塞感を主人公と分かち合うことが出来る。そして、ナチスによる弾圧と差別の残酷さと理不尽さを肌身に感じることが出来るのだ。

 主人公は、次第に「人間らしさ」を失っていく。家族と友人を全て失って、ボロボロの服をまとって廃墟を彷徨う彼は、泣くことと叫ぶことしか出来なくなっていく。食糧のことしか考えられなくなっていく。しかし、彼がそんな理不尽な運命に陥った理由は、彼が「ユダヤ人だ」という、ただそれだけなのだ。

 そんな彼に、食糧と冬の衣料を与えてくれたのが、ドイツ軍の将校だというのが皮肉である。

 しかし、平和が回復すると、シュピルマンは元通りの「人間」に戻り、再びピアノの前に座るのだった。逆に、彼を救ったドイツ軍将校は、シベリアに送られて命を落とすのである。

 「歴史」あるいは「人間」について深く考える上で、とても良い映画だと感じた。

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