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映画評論

映画評論 PART5

誓  い Gallipoli

制作;オーストラリア

制作年度;1981年

監督;ピーター・ウィアー

 

(1)あらすじ

  1915年、オーストラリアの若者たちは、史上初めて世界の桧舞台に立つことになった。すなわち、第一次世界大戦への参戦である。 冒険を求める夢多き若者たちは、友情をはぐくみながら中東戦線の劈頭に立つ。

  だが、戦場となったのは、オスマントルコ帝国の精鋭が死守するガリポリ半島であった。 純朴な若者たちは、冷酷非情な宗主国イギリスによって、消耗品代わりに利用され、そして虚しく倒れて行くのだった。

 

(2)解説

  第一次大戦屈指の激戦「ガリポリ半島の戦い」を描いた傑作映画。

 これほど見事な映画だとは、今年になってDVDを見るまで知らなかった。

 この映画の存在は以前から知っていたのだが、なかなか見る気になれなかった。その理由は、市販DVD(ビデオ)ジャケットの裏面の解説に、「クリミア戦争を舞台に・・・」など、ボケたことが書いてあったから。日本人は世界史音痴だから仕方ないのかもしれないが、オーストラリア人がこのボケを知ったら、国交断絶されても宣戦布告されても文句は言えないぞ!

 オーストラリアを訪れた方ならすぐに分かるけど、「ガリポリ半島の戦い」は、オーストラリア人にとって、最も意義深い歴史上の戦いなのだ。あの国には、あちこちにANZAC記念館とかANZAC広場とかANZAC大橋とかANZAC通りとかあるでしょう?ANZACというのは、「オーストラリア&ニュージーランド混成兵団(Australia and New Zealand Army Corps) 」のことだが、ガリポリ半島の戦いでは、実に10万人が戦死したと言われている。これは、オーストラリア史上で最大の戦災だ。ANZACの若者たちは、宗主国イギリスの命令で中東まで連れて行かれ、そこでイギリス人の楯代わりに戦死したのだから悲しい。

 それを、日本のレコード屋は、「クリミア戦争」などと事実誤認も甚だしいことを平気でDVDジャケットに書くのだから見識を疑う。いつか修正されるのではないかと、じっと経過観察していたが、10年経ってもまったく直らない。・・・誰も気づかないってこと?  ようやく最近になってから、新宿のHMVでスペシャルエディションDVDを発見したところ、そこにはボケたことが書かれていなかったので、めでたく購入して見ることが出来たというわけである(泣)。

 なになに?オイラが、レコード会社に教えてあげれば良かったじゃないかって?いったんはそう考えたけど、「日本人の中にも、オイラ並に歴史見識のある人が他にいるだろう」と期待して、10年間の持久戦を戦ったのであった!その期待は、完全に裏切られたわけだが(苦笑)。

 さて、「誓い」は、オーストラリア出身の名匠ウイアーが、万感の思いで作り上げた歴史巨編である。

 冒頭からオーストラリアの片田舎が描かれ、元気いっぱいの若者たちの交感が描かれる。

 20世紀初頭のオーストラリアは、世界の辺境、そして宗主国の流刑地としての屈辱から抜け出すため、世界史の真ん中に華々しくデビューしたいと望んでいた。全編で描かれる野趣溢れる若者たちの躍動は、当時のこういった雰囲気を上手に伝えている。

 ウィアー監督は、セリフや解説をまったく用いずとも、映像の空気とテンポだけで、こういったことを全て表現できるのだから天才である。

 しかし、世界史へのデビューとは、すなわち第一次世界大戦に参加することだった。騎士道物語の陽気なノリで中東に出陣した若者たちは、トルコ軍の機関銃に一方的に殺戮される戦場の有様に愕然とする。そして、物語前半の陽気なテンポとリズムは、一転して処刑場の空気に代わり、そして若者たちは虫けらのように殺されて行くのだ。やがて迎える衝撃のラスト。

 日本版タイトルの「誓い」は意味不明だし、主演メル・ギブソンというのも大ウソだが(彼は、主演マーク・リーの親友役でしかない)、絶対に見て損をしない映画だと断言できる。

 なお、ガリポリ半島の戦いの詳細については、拙著「アタチュルクあるいは灰色の狼」の冒頭に出ているので、そちらを参考にしてください。このWEBでも読めるけど、本屋さんに注文して購入してもらえると、オイラ的には嬉しかったりして(笑)。 ・・・でも、絶版中か!

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