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映画評論

映画評論 PART5

チェ・ゲバラ&カストロ Fidel and Che

制作;アメリカ

制作年度;2002年

監督;デヴィッド・アットウッド

 

(1)あらすじ

 1950年代のキューバは、宗主国アメリカによる過酷な差別と搾取の中にあった。

 青年弁護士フィデル・カストロ(ビクター・ヒューゴ・マーチン)は、弟ラウルや親友チェ・ゲバラ(ガエル・ガルシア・ベルナル)とともに革命軍を組織し、バティスタ傀儡政権の打倒に成功し、ついにキューバ革命政権を樹立する。

 しかし、その後の苦難の歴史の中、新たな革命を求めてボリビアに発ったゲバラは、孤立無援の中で非業の最期を遂げるのであった。

 

(2)解説

 アメリカのテレビシリーズの映画編集版。DVDを購入して見ました。

 面白かったです。ソダーバーグの「チェ2部作」より、よっぽど歴史の本質を上手に捕えた内容でした。

 だけど、日本版DVDの日本語タイトルは「チェ・ゲバラ&カストロ」で、英語タイトルも「CHE GUEVARA & CASTRO」と変えてある。そして、DVDのカバーはゲバラの顔!

 これって、悪質な詐欺ではなかろうか?というのは、この映画の主人公はあくまでもカストロであって、ゲバラは脇役に過ぎないのです!

 まあ、業者の気持ちも分からないこともない。日本では、カストロよりもゲバラの方が人気があって知名度も高いから、それでゲバラを前に出しておきたいのだろーね。しかも、ゲバラを演じたガエル・ガルシア・ベルナルは、「モーターサイクル・ダイアリーズ」でもゲバラ役をやって、当時の日本で有名だったのだから、彼の顔を表紙に使いたい気持ちは分かります。でも、詐欺は詐欺です。脇役を主役扱いしてはいけません。私は、ゲバラよりカストロが好きな人なので、かえって嬉しかったけど、一般人はこれを見た後で激怒するのではなかろうか?

 もっとも、ガエルくんの演技はなかなかでしたな。ゲバラの、熱に浮かされたイデオロギストの雰囲気を上手に出していたので、ベニチオなんかより遙かに上でした(線が細すぎる感はあったけど)。

 また、キューバ革命政府の初期の過激な政策は、実際にはその多くがゲバラの入れ知恵によるものでした。カストロは、たとえば戦犯の大量処刑などには気乗りしなかったようですが、親友ゲバラの意見に流されていたようです。その点も、忠実に描けていたので、「ゲバラ=ヒーロー」として単純に美化しないところは感心です。

 それにしても、アメリカ映画なのに、カストロが主人公とは意外や意外。エディー賞にもノミネートされたみたいだし。しかも、革命戦争を中心にして、正義に燃える英雄青年カストロを、とても好意的に描いています。そして、すべての描写が歴史にかなり忠実なので、私でさえ文句を付けられません。

 たとえば、革命戦争に彼が勝利できた最大の理由を、「メディア戦略である」と正しく喝破して、戦闘よりもマスコミに顔を売るカストロの姿を中心に描いているのは偉い!意外と、こういった「本質」はオミットされがちなので、好感を持てました。

 主役のビクター・ヒューゴ・マーチンが、カストロに全く似ていないことくらい、十分に許せてしまいます(苦笑)。

 「カストロをヒーローに描くなんて、アメリカにも意外とリベラルで心が広い人がいるなあ」と感心しながら見ていると、終盤で来た、来た、来たー!

 終盤は、最近のキューバの貧乏で惨めな様子を誇張して描き、そして老年のカストロが失意に沈む様子を執拗に描きます。

 つまりこの映画は、「カストロは、若いころは偉かったけど、今では堕落してダメ爺になった。結局、キューバはアホウなバカ国家なのだ」と結論づけたわけです。だからこそ、「コマンダンテ」と違って、アメリカ国内で放映できたし、エディー賞候補にもなったのですな(苦笑)。

 これは、なかなか良く考えられた誹謗中傷の仕方です。

 歴史的事実の中から、都合の良い部分だけを抜き出して誇張する。最初に上げておいてから、後でドカンと落とす。

 最も賢いプロパガンダの方法を学べる良いテキストでした。

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