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映画評論

映画評論 PART6

ブラジルから来た少年 Boys from Brazil

制作;イギリス

制作年度;1978年

監督;フランクリン・J・シャフナー

 

(1)あらすじ

 ナチス狩りに執念を燃やすユダヤ系アメリカ人青年コラー(スティーヴ・グッテンバーグ)は、南米パラグアイでの「ナチス会」の秘密会議を盗聴した。すると、大幹部ヨゼフ・メンゲレ博士(グレゴリー・ペック)が部下たちに、世界各地で94名の一般市民を殺害するよう命じていた。

 驚いたコラー青年は、メンゲレに発見されて殺される直前に、ウイーンに住むナチス狩りの専門家エズラ・リーバーマン(ローレンス・オリビエ)に国際電話で急報を入れることに成功する。

 リーバーマンは、メンゲレの無差別殺人計画の目的を察しかねつつも、老体に鞭を打って調査を始めた。すると確かに、世界各地で50年配の老人が、事故を装って何者かに殺害されているのだった。

 被害者たちはナチスとは何の関係もなく、ユダヤ人でもなく、互いに面識もなく、国籍もバラバラだった。彼らの共通点は、平凡な公務員かそれに類した職にあること、若い妻と10代半ばの男の子がいること。そして、男の子の顔と性格が、みんな瓜二つであることだった。

  やがてリーバーマンは、少年たちが誰かの「クローン」であることに気付く。生物学の教授(ブルーノ・ガンツ)から詳しいレクチャーを受けるうちに、彼はついに真相に気付いた。

  宿敵メンゲレ博士の目的は、ナチス総統アドルフ・ヒトラーを現代に再生させることなのだった。

 

(2)解説

 「昔の映画は知的だったなあ」+「中南米ネタ」ということで、取り上げたのがこの映画。「これって、歴史映画じゃないじゃん!」と突っ込まれたら、「まあその通りです」と応えるしかあるまい(笑)。ジャンル的にはSFである。

 アイラ・レヴィンの原作小説も非常に面白かったけど、映画はまた違った味で見事である。古き良き時代のヨーロッパ映画の残り香が全面に漂っている。主演グレゴリー・ペックとローレンス・オリビエというのが、その象徴であろうか。2人の老人の対決(肉弾戦まである!)は、この名優2人だからこそのパワフルな迫力がある。

  だけど、この映画は日本では一般公開されなかった。後にテレビ局が安値で仕入れてやたらと放送していた時期があるので、私は子供のころにテレビで見て非常に強烈な印象を受けた。大人になってDVDで見直して、その素晴らしさに改めて感動した次第である。このような名画を一般公開しなかったということは、日本の映画会社はすでにこの当時から目が曇っていたということだろうか?

 邦題の付け方にも文句を言いたい。「ブラジルから来た少年」って、なんか青春スポーツものみたいじゃん(笑)。原題どおりに「ブラジルから来た少年たち」と複数形にした方が、得体の知れぬ不気味さが滲み出て良かったと思うのだが。

 物語の構成は、本当に見事である。

 メンゲレの意図や目的がなかなか明らかにならないし、明らかになる瞬間の間の取り方やテンポも完璧である。そして、この当時の最先端技術であった「クローン」を主題にしているのが素晴らしい。

 メンゲレは、南米の秘密病院で94人のヒトラーのクローンを作り出すことに成功するのだが、同じ遺伝子を持つだけでは、クローンがヒトラーその人にならないことを知っていた。人間の性格は、後天的な生活環境によって決定される部分が多いからである。そこでメンゲレは、子供たち全員を、ヒトラー家と良く似た環境条件を持つ家庭に養子に出した。そして、実際のヒトラーが若いころに父親を亡くしていることから、同じタイミングで養父全員を殺害しようとしたのである。確率計算をした結果、94人のヒトラーの遺伝子が全く同じ生活環境で育つならば、そのうちの数名はヒトラーその人になるはずだと固く信じて。

 もっとも、1970年代の世界にヒトラーその人が復活したところで、いったい何が出来るのだろう?

 「ナチス会」の中にもメンゲレの狂った計画に反対する者が多くて、この計画が途中で打ち切られてしまうところがリアルである。メンゲレ博士は狂人、というよりも、医学者としての己の技能と知識に耽溺して暴走している人物に見える。

 対するリーバーマンは、ヒトラーの誕生を恐れて、というよりは純粋な正義感から被害者たちの命を助けようとする。そして、遺された少年たちさえ守ろうとする。「ブラジルから来た少年たち」が、たとえヒトラーと全く同じ遺伝子を持っていたとしても、決してヒトラーその人にならないことを強く信じて。

 もっとも、映画のラストシーンは、少年の一人が血まみれの死体の写真を見て喜ぶシーンである。なんか、B級ホラー映画みたいな終わり方である。ここでは、実際のアドルフ・ヒトラーが「血を見るのが嫌いな菜食主義者だった」 事実は完全に忘れられているようで、「ヒトラー=残酷な性格」というステレオタイプの幼稚で単純な決めつけには嘆息せざるを得ない。

 そもそも科学的に見て、仮にホストが残酷な性格だったとしても、クローンまでそうなるとは限らない。単なる細胞のコピーだからである。そのため、このシーンはいろいろな批判を浴びたようだ。

 それでも、アメリカ映画よりはマシである。なぜなら、アメリカ映画で描かれるクローンは、肉体のみならず性格や記憶までも、先天的にホストのそれを自動継承しているケースが多いのだ。そんなバカな。そう考えると、イギリス映画はまだまだ科学的なんだなあと一目置かざるを得ない。

 なお、生物学の教授役でブルーノ・ガンツが出て来るのだが、まだ若くて毛がフサフサしている。まさか、彼自身が「ヒトラー最期の十二日間」で後にヒトラーその人を演じることになるとは、この時は夢にも思わなかっただろうな。

  ともあれ、古き良き時代の名優たちのご冥福を心よりお祈りします。

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