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映画評論

映画評論 PART6

ダーク・ブルー Dark blue world

制作;チェコ

制作年度;2001年

監督;ヤン・スビエラーク

 

(1)あらすじ

  1939年3月、チェコスロバキアはナチスドイツによって無血占領された。

 しかし、降服を潔しとしないチェコ空軍の勇士たちは、ポーランド、フランス、そしてイギリスへと渡り、義勇兵となって大空でナチスと戦い続けた。

  ところが戦後、生き延びて祖国に帰り着いた彼らを待っていたのは強制収容所だった。ソ連の息がかかった新生チェコスロバキアにとって、イギリス軍の一員だった義勇兵たちは、英雄どころか邪魔者に過ぎないのだった。

 

(2)解説

 高畑勲、宮崎駿両氏大絶賛の触れ込みで、スタジオジブリの協賛の下で、鳴り物入りで上映された映画。

 その割には、「シネスイッチ銀座」での単館上映だった。ジブリの威信も高畑・宮崎両氏の名声も、頑迷固陋な大手映画館を動かすことは出来なかったというわけだ。やれやれだぜ。

 ともあれ、私が大好きなチェコ映画である。しかも、ヤン・スビエラークは、あの超絶的名作「コーリャ愛のプラハ」の監督である。そして脚本を書いたのは、監督のお父さんズデニェク(つまり、「コーリャ」でロウカ役だった人)だ。さらに、主演は「コーリャ」で印象的な墓掘りを好演したオンドジェイ・ヴェトヒィだ。 想像してください。この映画の上映を知った時の、この私の感動と興奮の有り様を。一本の映画に、これほど夢と希望を抱いたことは後にも先にも無いっ!

  だけど、実際に見に行った感想はというと。

  ううむ・・・・・。

 物事は何でもそうだが、最初に過剰な期待を抱かない方が良い。 なんというか、観客の期待や予想を、ことごとく外すような物語の作り方なのである。チェコ映画だし、スビエラーク監督だから(つまり、ひねくれている(笑))、おそらくわざとやっているんだろうけどね。

 主人公たちは、スピットファイヤー戦闘機を操るパイロットだが、イギリスには何のゆかりもないチェコ人義勇兵である。それが過酷な戦場で、バタバタと撃墜されて死んでいくのである。だけど、彼らのこの行為の動機はほとんど描かれないのである。

 普通ならせめて、「祖国を蹂躙したナチスが憎い!」とか、誰かに言わせるでしょう?「ヒトラーの野郎、ぶっ殺してやる!」とか、激怒するシーンを作るでしょう?ところが、そうじゃないのである。みんな、ヒトラーのことを「隣の変なオジサン♪」みたいなノリで、笑顔でニコニコ語るのである。

  なんで?

  また、パイロットたちは、暇さえあればナンパに精を出している。主人公フランタと相棒のカレルは、女の話しかしないし、最後は女を巡って喧嘩になって絶交しちゃう。そして、カレルは不機嫌のまま戦死しちゃうのだ(いちおう、死ぬ前にフランタを助けるけど)。この人たち、わざわざ、イギリスに女を漁りに来たのかね?命の危険を冒して?

 まあ、このノリがチェコ流だといえば、これ以上は無いくらいにチェコ流なんだろうけど(苦笑)。

 生き残ったフランタが祖国に帰ると、婚約者が他の男と結婚していた!これって割と、この手のドラマに有り勝ちなベタな展開である。だけど、フランタはフランタで、イギリスで他の女と楽しくやっていたのだから、ある意味で自業自得である。だからフランタは寂しげに微笑むだけで、このエピソードは終わり。

 はあ・・・。

  戦後、理不尽に強制収容所に入れられることになっても、フランタは微笑んでいる。特に、恨みごとも愚痴も言わない。ここが、いかにもチェコ流である。

 これがハンガリー映画やポーランド映画なら、絶対にこういう描き方はしない。社会主義政権の理不尽さに対して、登場人物が感情的に抗議するシーンを必ず作ることだろう。 スビエラーク監督ってば、わざと観客の予想や期待を裏切るような造りをしているとしか思えない。

 このように、「ダーク・ブルー」は、いろいろな意味で型破りな戦争映画である。監督は、おそらく戦争映画の定石をひっくり返すような「革命」をやりたかったのだろう。ただ、ちょっとやり過ぎだったかもしれない。そして、主人公の達観ぶりがあまりにも「チェコ的」過ぎて、外国人にはすんなり入って行けない世界だったような気がする。

 病的なチェコマニアであるこの私でさえ、首をかしげるくらいだもんなあ。

  それでも、近年のアメリカ映画や日本映画が、過去の成功経験を踏襲した「ベタな造り」のワンパターンな物語しか作らない現状を考えると、常に実験や冒険を繰り返す中東欧ロシア映画はハイレベルだと言わざるを得ないだろう。

 以上、やや辛口の評論になってしまったけれど、「ダーク・ブルー」の空中戦や飛行機の撮り方は非常に上手だった。名戦闘機であるはずのスピットファイヤーやメッサーシュミットが、「中古の軽自動車」みたいな描かれ方なのには驚いたのだが、考えてみたら1940年代のマシーンだし、実際にあんな感じだったんだろうね。そのリアルさは、とても素晴らしいと感じた。私が将来、戦闘機ものを書くときは、「ダーク・ブルー」を大いに参考にすることだろう。

 そして、この時点で私は気づいてしまった。

 なぜ、高畑勲と宮崎駿がこの映画を大絶賛したのか?

  ・・・この人たち、第二次大戦のレシプロ戦闘機のマニアなんだよねー(苦笑)。

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