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エクスカリバー EXCALIBUR

制作;イギリス

制作年度;1981年

監督;ジョン・ブアマン

 

(1)あらすじ

舞台は、混沌とした中世戦乱期のブリテン。

魔法使いマーリン(ニコル・ウイリアムソン)は、最強の豪族ウーサー王の望むままに、魔法を用いて、彼をコーンウォール候の后イグレーヌと同衾させる。こうして生まれた不義の子がアーサーだ。しかし、その後の戦いでウーサーは戦死し、マーリンは赤子のアーサーを民間に隠した。

成長したアーサー(ナイジェル・テリー)は、ふとしたことから王の証である聖剣エクスカリバーを突き立った岩から引き抜くことで、自分の素性を知る。マーリンの補佐を得た彼は、敵対勢力を次々に打ち破り、ランスロット(ニコラス・クレイ)ら勇敢な騎士たちを味方につけ、ついにイギリス全土を統一して平和をもたらすのだった。王はマーリンの助けを借りて、騎士たちのために彼らの座る円卓を設け、キャメロットの地に壮麗な城を築く。

しかし、平和が続くうちに、次第に堕落と陰謀がキャメロット王国に忍び寄る。イグレーヌの娘モーガナ(ヘレン・ミレン)は、邪悪な魔女に成長していた。彼女は、異父弟アーサーの没落を画策し、手始めにマーリンを罠にはめて幽閉してしまう。その間、ランスロット卿とグイネビア后が不倫を始め、それに気づいたガーウェン卿(リーアム・ニーソン)とランスロットが不和となり、キャメロットは暗黒時代を迎えるのだった。

この窮地を救えるのは、キリストが最後の晩餐に用いた「聖杯」の力しかない。パーシバルら勇敢な騎士たちは、モーガナの妨害を乗り越えて、ついに聖杯を手に入れる。パーシバルが聖杯に汲んだ水をアーサーに飲ませると、老いた王は生気を回復し、そしてモーガナとその子モードレッドに最後の戦いを挑むのであった。

 

(2)解説

私は、ジョン・ブアマン監督が大好きだった時期がある。リドリー・スコット監督も好きなのだが、この人もイギリス出身だ。どうやら、私の感性はイギリス人に近いらしい。そういえば、軽音楽もブリティッシュ・ロック&ポップスの世界が大好きだ 。

さて、『エクスカリバー』は、アーサー王伝説を最も忠実に描いた映画である。

この映画は、『キング・アーサー』と違って「歴史」にはこだわっていない。劇中で、きちんと(?)魔法や聖杯が描かれる。つまり、トーマス・マロリーの著した『アーサーの死』に忠実に物語が進められるのだ。

印象的なのは、画面の異様な暗さである。剣と魔法のファンタジー映画なのに、戦闘シーンは妙にリアルで生臭い。首は飛び腕はちぎれ、血しぶきがあがる。そのため、「子供向け」の印象はまったく無い。逆に、ヌードやセックスのシーンが露骨なので、子供は見るべきでないだろう。純粋な大人のための映画なのである。

ただし、長大な物語を2時間台の映画に纏めるために、原作を改変した箇所も多い。原作では、マーリンを迷いの森に幽閉するのは、モーガナではなくて妖精のヴィヴィアンである。また、聖杯を発見するのはパーシバルではなくてガラハッドである。モードレッドは、映画のように最初から敵対していたわけではなく、原作ではラスト近くまでアーサーの忠臣を演じていた。

残念に思ったのは、最後の円卓の騎士の破局シーンが中途半端だったことだ。原作では、ランスロットとガーウェンの派閥対立に、妻を寝取られたアーサーの嫉妬がからんで内部抗争が始まり、それに付け込んだモードレッドが謀反を起こすという派手なストーリーだった。

これに対して、映画では、あくまでもアーサーとモードレッド(とモーガナ)の二項対立しか語られない。それでも、最後の円卓の騎士の行軍シーンで舞い散る花びらとワーグナーの音楽のコンビネーションには感涙を浮かべてしまったのだが。

また原作では、アーサーと和睦したランスロットが、最後の戦いで王のために援軍を発するものの惜しくも間に合わなかったことになっている。これが映画だと、ランスロットが単身で戦場に斬り込んで、アーサーの窮地を救って息絶えるという落ちになっていた。これには少々、違和感を感じた。

個人的な話だが、筆者は原作のガーウェン卿が大好きなので、もっとガーウェンを活躍させて欲しかった。この映画の中では、単なる狂言回しないし汚れ役だったから。

あまりにも見事な原作を、完全に映画化するのは不可能なのだろうか?『指輪物語』のように、三部作に出来るなら、もしかすると可能になるかもしれないが。

それでも、『エクスカリバー』は、私が知る中で最高のアーサー王映画である。これを越える作品は、二度と作られることはないだろう。

なお、この映画でアーサーを演じたナイジェル・テリーは、『トロイ』に神官役で出演していた。また、ガーウェン役でデビューしたリーアム・ニーソンは、今では押しも押されぬ大俳優だ。好きな映画の俳優が、今でも元気に頑張っているのを見ると、とても嬉しくなる。