歴史ぱびりよん > 映画評論 > 映画評論 PART3 > 戦争と平和 第二部 ナターシャ・ロストワ ВОЙНА И МИР Ⅱ
制作;ソ連
制作年度;1966年
監督;セルゲイ・ボンダルチュク
(1)あらすじ
ナポレオン率いるフランス帝国の権勢がロシア国境に到達し、窮したロシア皇帝がテルジット条約を結ばざるを得なくなったころ(1809年)、ロストフ家の長女(原作では次女)ナターシャが社交界にデビューすることとなった。
皇帝臨席の大舞踏会でアンドレイと踊るナターシャ。二人はたちまち恋に落ちる。
しかしアンドレイは、頑固な父親の猛反対にあったため、ナターシャとの結婚を1年後に伸ばさざるを得なかった。そんなアンドレイは、ナターシャと秘密の婚約をしたまま1年間の外遊に出てしまう。 故郷に一時帰省した長男ニコライを迎え、ロストフ一家は荘園で大規模な狩猟を行った。その後、田野で気ままに生きる叔父の家に遊びに行ったニコライとナターシャは、純粋なロシア文化に迎えられて感動する。バラライカとギターに合わせ、見事なステップで民族舞踊を踊るナターシャ。しかし、そんな心の中で寂寥感は募るばかりだった。
ナターシャの孤独に付け込んだのが、不良貴族でプレイボーイのアナトールだった。彼は外国で結婚していたにもかかわらず、その事実を秘密にしてナターシャを口説く。経験不足のナターシャは、プレイボーイの甘言に乗せられ、アンドレイに別れの手紙を書いた上、アナトールと駆け落ちの約束までしてしまうのだが、従姉妹ソーニャの機転で事なきを得た。
その後、アナトールの結婚の秘密を知ったナターシャは、自分の愚かさに絶望して服毒自殺を図る。そんな彼女を慰めたのがピエールだった。
「もしも僕がこんな僕でなく、もっと賢くて美しくて自由の身であったなら、あなたの前に跪いて愛を求めることでしょう」。 自分でも気づいていなかった積年の思いを愛する人に打ち明けたピエールは、久しぶりに幸福を感じてモスクワの夜空を振り仰ぐ。そこには1812年のハレー彗星が逆立ちしていた。
そして、ナポレオンのロシア遠征が開始された。
(2)解説
原作の第二部の中盤から最後までの映画化。
第二部の主役は、何といってもナターシャ・ロストワ(リュドミラ・サベーリエワ)である。
原作のナターシャも非常に魅力的だが、映画版ナターシャを演じたサベーリエワは、さすがに全盛期のソ連が国力の全てを賭けて選抜した美少女だけに、実に見事にこの難役をこなしている。 ナターシャというヒロインのユニークなところは、彼女が「成長する」点である。
第一部では、13歳の闊達で我がままな少女であった。それが成長して「ロシアの大地」を体現する深みのある女性となるのだが、相変わらずの自己中心的な恋愛観によって許婚を裏切り自らも破滅の淵に立つ。しかし彼女は、この絶望を乗り越えてより優れた女性へと成長するのであった。
数段階にわたって成長を遂げるヒロインというのは、全世界の文学を見回しても例がない。彼女が、文学史上最高のヒロインと言われるわけである。
主観ではあるが、「戦争と平和」という物語は「ロシアの誠実な人々が、様々な絶望と苦難を乗り越えることで、西欧(特にフランス)の影響によって失われかけていた『ロシアの魂』を取り戻す」物語である。
そしてナターシャは、ロシアの大地の象徴なのである。
ハリウッド映画では表現出来なかった「ロシアの魂」が、この映画の中では実に見事に表現されていたと思う。
でも、中盤は相変わらずのモノトーンタッチなので眠くなったけど。