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ブレイブハート Brave heart

制作;アメリカ、イギリス

制作年度;1995年

監督;メル・ギブソン

 

(1)あらすじ

13世紀のスコットランドは、イングランドの過酷な支配と略奪に苦しんでいた。

青年ウイリアム・ウォレス(メル・ギブソン)は、妻をイングランド兵に殺害されたことをきっかけに、独立戦争の指揮官となる。

彼は、卓抜な戦術で攻め寄せたイングランド軍を次々に打ち破るのだが、イングランドと利害関係を持つスコットランド貴族たちの足並みが揃わない。ついに、貴族たちの裏切りにあってスコットランド独立革命軍は敗れ去る。

しかし、捕虜となってロンドンに引き出されたウォレスは、処刑台の上でも屈することなく「自由」を叫ぶのだった。

やがて、ブルース卿に率いられたスコットランドの勇士たちは、ウォレスの思い出を胸にして、イングランドからの独立を達成した。

 

(2)解説

おそらくは『ダンス・ウイズ・ウルヴス』の成功が契機となったのだろうが、1990年代は、これまでの映画で描かれてきた歴史の通説を覆すような史劇が数多く作られるようになった。中世スコットランドの独立革命を描いた大作映画など、一昔前は想像すら出来なかっただろう。

監督兼主演のメル・ギブソンはオーストラリア出身なのだが、遠い先祖はスコットランド人だったという。そういった背景があるからこそ、このような大胆な挑戦が可能になったのだ。

映画は、終始一貫してスコットランド側の視点に立っていて、劇中に登場するイングランドの王侯諸侯は、みな奸智に満ちた邪悪な人間に描かれている。そういえば、国王エドワード1世を演じたパトリック・マクガーハンは、 『刑事コロンボ』に犯人役でよく登場していた(笑)。従来のシェークスピア劇などでは常に大義として描かれるイギリス王朝の人々を、ここまで貶めただけでも凄い快挙である。

実際、歴史上の真実などというものは、論じる側の立場によって180度違うものである。プランタジネット朝やノルマン朝の栄光は、支配され搾取される側の人々から見れば邪悪な暴力でしかない。我々は、シェークスピアなどの高名な表現者がイギリス側の立場で本や劇を書いたものだから、なんとなく華麗で立派なようにイメージしているだけである。そういった「歴史の相対性」を気づかせてくれるだけでも、この映画は非常に大きな価値がある。

物語の組み立て方も、実に上手であった。主人公は妻の仇を討つために挙兵し、最後までその面影を忘れない。その割には、イギリス王太子の后(ソフィー・マルソー)とアバンチュールしちゃうわけだが、これも重要な伏線になっている。過酷な史劇でありながら、全体的にロマンティックなテイストなのが良い。

スコットランド貴族の描き方も見事であった。最重要人物であるブルース卿の心の葛藤を、彼の父親との意見対立という図式に置き換えることで、実に分かりやすく、しかもドラマティックに説明していた。 彼の最後の裏切りも、ブルース自身はウォレスの味方だったのに、父親が勝手に裏切ったという説明になっていた。ギブソン監督は、ブルースの、いやスコットランド貴族たちの複雑な心理を、こういう技法で分かりやすく表現したのである。ブルースの父親(ブルースの悪い心の象徴)の容貌が、ハンセン氏病を病んで醜く崩れている設定など、実に見事なモンタージュ技法だと感じた。「なるほど、こういう方法もあるんだなあ」と、劇場で素直に感心した。

戦闘シーンの大迫力も見事であった。『プライベートライアン』以前の映画で、あそこまでリアルで凄惨な戦闘シーンを表現できたのは、この映画だけである。『ブレイブハート 』の戦闘シーンのイメージは、拙著『ボヘミア物語』にも非常に大きな影響を与えている。

それにしても、ウォレスをはじめとするスコットランドの戦士たちが、みんな民族衣装のスカートを履いているのには、しばしば失笑しそうになった。スカートの下から毛むくじゃらの足が覗いていて、それが凄惨な死闘を演じるのだから、ある種のブラックユーモアを感じた。まあ、スコットランドの伝統文化がそうなのだから、これは仕方ない。

ただ、ウォレスが拷問を受けて処刑される場面を延々と描いたのには閉口した。製作者の意図も分からないではないが、もう少しスマートに纏めて欲しかった。それだけが残念である。