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ぜんぶ、フィデルのせい La Faute a Fidel !

制作;フランス

制作年度;2006年

監督;ジュリー・ガヴラス

 

(1)あらすじ

1970年代のフランス。9歳の少女アンナ(ニナ・ケルヴィル)は、裕福な両親のもとで、可愛い弟ともに幸せに暮らしていた。

しかし、「チリ革命」をきっかけに左翼思想家に転向した両親は、アンナに学校の宗教学の授業をボイコットさせた上(宗教はアヘンだから)、大好きだったミッキーマウスの人形を取り上げてしまい(アメリカ資本主義の象徴だから)、しかも安普請のボロアパートに転居してしまった。それどころか、日々の食事も貧しい内容に変えてしまった上に、家政婦さんまでクビにする。そして家族のアパートには、昼夜を問わず、濃い鬚を生やし葉巻を吸いまくる自称「革命家」たちが入り浸る始末。

これまでの裕福で平和な生活が恋しいアンナは、「キョーサンシュギ(共産主義)」の当否を巡って両親と激しく対決する。 しかしこの騒動の中で、両親が様々な苦しみを抱いていることや(実は、スペインのフランコ右翼政権に弾圧されてフランスに逃げて来た一家だった)、彼らが優しい心の持ち主であるがゆえキョーサンシュギ者に変貌した過程を知ることで、アンナの中で何かが大きく変わって行くのだった。

 

(2)解説

「恵比寿ガーデンプレイス」での単館上映作品。大手映画会社は何を考えて(以下同文)と言いたいところだけど、これもまあ仕方ない。この映画、予備知識が無い日本人にとっては内容がチンプンカンプンに違いない。

1970年代の日本は「安保闘争」の時代だったわけだが、フランスも似たような時代の空気の中にあった。ただし日本とフランスの左翼思想の決定的な違いは、日本の左翼はソ連ないし中国寄りだったのに対して、フランスの左翼はラテンアメリカ寄りだった点である。

世界地図を見るよりは地球儀を見た方が分かり易いのだが、フランスは地理的にソ連よりも中南米に近いのである。だからフランスの左翼は、ソ連の動向よりはむしろ、キューバなどのラテンアメリカ世界の左翼と深い関係を持っていた。この映画のタイトルが「ぜんぶ、フィデルのせい」であることに、そのことの全てが現われている。

フィデルというのは、言うまでもなく、キューバ革命の英雄フィデル・カストロのことである。この辺り、日本人の感覚ではなかなか分かりにくい。だから、この映画もきっと分かりにくい。

アンナの家の家政婦さんが、カストロに祖国を追われた亡命キューバ人で、子供たちに「世界が悪くなったのはぜんぶフィデルのせいよ!」と言いまくるのが、この映画のタイトルになっている。この家政婦が「キョーサンシュギ者は悪い奴らよ。みんな鬚を生やして葉巻を吸っているから、一目で分かるのよ!」と言ってたら、子供たちの父親が本当にそんな姿になってしまったのが笑いどころである。

実際、この映画に出て来る左翼思想家は、みんな濃い顎鬚を生やして葉巻を吸っている。これは明らかに、カストロやチェ・ゲバラの真似をしているのである。「左翼といえば鬚と葉巻」という感覚も、日本人には分かりづらいだろう。

しかも、この映画の背景は「キューバ革命」じゃなくて「チリ革命」なのである。キューバ革命なら知っている人でも、チリ革命のことはなかなか知らないだろう。これは、キューバ革命の影響を受けた結果、チリで社会主義政権が合法的な普通選挙の結果誕生したという画期的事件である(1970年)。フランスの左翼運動家たちは大いに喜んだ。何しろこの事件は、彼らに平和的な選挙活動で政権を奪取する夢を与えたのである。リベラルな弁護士一家だったアンナの両親が、この事件を前に大いに張り切った事情も良く分かる。

劇中、アンナと「鬚の革命家」が議論を交えるエピソードがある。革命家がオレンジを例にとって、「オレンジが一個しかない場合、これを平等に分け合うことで、みんなが幸せになれる」と論ずると、アンナは「オレンジの数を、もっと増やせばいいじゃないの!」と言い返す。9歳の女の子にしては頭が良すぎる気もするが(笑)、共産主義と資本主義の違いを最も分かり易く説明する良い挿話だと思った。

映画は、「チリ革命の崩壊」で幕切れとなる。1973年9月11日、アメリカの息のかかった右翼のピノチェト将軍がクーデターを起こし、アジェンデ大統領を殺害してチリの社会主義政権を終わらせたのである。失意に沈むアンナの両親。だけど、家族の絆がいつの間にか強くなっているラストは、希望に溢れるものだった。

どうでもいいけど、アンナ役のニナ・ケルヴィルちゃんは、物凄い美少女である。ナージャと違って美人顔だったから、きっと今でも可愛いんだろうな。巨乳になっていたら、なお嬉しいかも~(爆)。でも、まだ16歳か。