歴史ぱびりよん > 映画評論 > 映画評論 PART9 > ワレサ 連帯の男 WALESA. CZLOWIEK Z NADZIEI
制作:ポーランド
制作年度:2013年
監督:アンジェイ・ワイダ
(あらすじ)
冷戦下のポーランドは、過酷な共産主義政権の統治下で窒息しそうになっていた。
グダニスク造船所の労働組合を率いるレフ・ワレサ(ロベルト・ヴェンチェキェビッチ)は、不思議な人間的魅力と持ち前の頑固さ、そして優しい妻の助けを借りて、「連帯」とともに政府の横暴に挑む。
(解説)
「岩波ホール」で観た。この手の映画を見ようと思ったら、岩波ホールに行くしかない。それが、商業主義に染まりきった今の東京の現状である。
さて、ワイダ監督はもう90歳である。それなのに、映画の冒頭からポーランドのロック音楽が流れまくるのである。もちろん、ロック(反骨)こそがこの映画のテーマだからだろうけど、そういう映画を撮ろうとする90歳。そして、見事に傑作を完成させた90歳。これは、もはや映画界の神として崇拝するしかないだろう。
劇中のワレサは、傲岸不遜で自己中心的で、中二病全開の頑固親父である。だけど、目的を達成するために手段を選ばない狡猾さと、人間心理や政治力学の裏を正確に見抜く眼力を備えた傑物だ。そして、それなりに愛妻家で家族思いでもある。こういう複雑な人物を魅力的に描くのは非常に難しかっただろうが、ワイダ監督は卒なくやり遂げている。
ワレサは有名な「連帯」を率いて、あくまでも平和的な手段を用いて非暴力で共産党政権と戦った人物なので、ストーリーは極めて政治的でやや単調である。そこを、「ロックのリズム」で無理なく切り抜けた作劇術は秀逸である。
歴史マニアの観点からも、いろいろと勉強になる部分が多かった。ポーランドの凶悪な共産党政権がワレサと「連帯」を叩き潰すことが出来なかった理由は、ソ連支配下のコメコン経済体制の中では、グダニスクの造船業こそがこの国の命綱であったこと。それゆえ、造船所の労働組合を率いるワレサを優遇する必要性があったこと。また、ポーランドは伝統的にカトリック教会勢力が強かったため、「熱烈なカトリック信者」を標榜するワレサを弾圧しにくかったこと。そして、ワレサは当然これらのことを全て承知した上で、計算づくで戦っていたこと。
私は、この手の非暴力の政治ドラマを面白くする技術を、この映画から学ばせてもらった。ワイダ監督、ありがとう。
チェコのハヴェルの伝記小説を書く際には、この映画の技法を取り入れさせてもらいます。