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ブレスト要塞大攻防戦  Брестская Kрепость

 

制作:ベラルーシ、ロシア

制作年度:2010年

監督:アレクサンドル・コッド

 

(あらすじ)

1941年6月22日。

独ソ国境の街ブレストは、ナチスドイツ軍の突然の奇襲攻撃を受けた。ソ連軍のブレスト守備隊は、時代遅れの要塞に立て籠もって決死の抵抗を試みる。

 

(解説)

独ソ戦争勃発直後の大激戦の完全映画化作品。DVDで観た。

「主人公側が最後に全滅するものの、狂言回しは生き延びる」という物語の構造は、「硫黄島からの手紙」に近いかもしれない。

ベラルーシ映画というので不安だったのだが、非常に良い出来だった。少なくとも、最近のハリウッド映画や日本映画より、よっぽど製作者の技量が高いと感じた。

お話の組み立て方は、オーソドックスである。

すなわち、ソ連の少年兵アキーモフを中心軸に据えて、平和だった日々と、それを一瞬に破壊する突然のドイツ軍の猛攻撃、崩壊していく街、死んでいく人々の姿を、時系列的に淡々と描いている。

でも、オーソドックスな作りだから良いのである。

上で酷評した「フューリー」や「永遠のゼロ」は、お話を複雑でトリッキーにしたために、肝心の歴史的なリアリティが壊れてしまったように思えるから。

また「ブレスト要塞大攻防戦」は、戦争映画としても、かなり画期的で斬新なシーンが多かった。戦闘機同士の空中戦や急降下爆撃機の投弾を、地上視点から固定カメラで見せたり、あるいは火炎放射戦車に焼き殺される群衆の姿を、群衆サイドから見せたり、かなり大胆で勇敢な演出を用いていたと思う。

個々の将兵の描き方も秀逸だった。たとえば、力自慢の人、いつも犬を連れている人、ダンスが好きな人、アコーディオンを弾く人、といった具合に、視覚的なイメージだけで人物を描き分けてくれるので、テンポよくしかも容易に、それぞれの活躍ぶりや末路を追うことが出来る。つまり、将兵の名前どころか、顔を覚える必要さえ無いのだ。この創り方は、本当に上手だと思う。

また、ベラルーシは「世界最高の美人国」を自認するだけのことはあって(笑)、女優さんはみんな美人揃いだった。映画の中で、ほぼ皆殺しになってしまうけど(泣)。

ただし、やや不満を感じたのは、政治面の書き込みが弱かった点だ。具体的には「どうしてブレスト守備隊は玉砕するまで抵抗したのか?」が、説明不足なのである。

歴史的には、スターリンの暴政が背景にある。当時のソ連軍は、独裁者スターリンに逆らったら粛清されてしまうので、勝手に降伏したり退却したりするわけにはいかなかった。そして、ブレストの街には、かなり教条的で厳格な政治委員が君臨していて、それで守備隊は無謀と知りつつ玉砕するしか無い状況に追い込まれてしまったのだろう。

ところが、映画ではこういったことが全く描かれていない。スターリンを悪く書けないような、大人の事情でもあったのだろうか?こうして欠落した部分を、「純粋な愛国心」だけで説明しようとするから無理が出る。

せめて、ドイツ軍を実際以上に凶悪に描くことで、「どうせ降伏しても虐殺されてしまうのだから、最後まで戦わざるを得なくなった」と説明するべきだったかもしれない。

他にも、「Ⅲ号戦車の撮影用改造車がショぼい」とか、「白兵戦シーンでのドイツ軍が弱すぎる」とか、細かい不満や違和感はあったけど、全体としては良く出来た映画だったと思う。

そういえば、この映画の監督の名前もアレクサンドルだ。ロシア系のアレクサンドルさんは、やっぱり、みんな名監督なのだね!

ちなみに、セルDVDには約1時間の特典映像やメイキングが入っていてお得だった。ベラルーシ映画界は、いろいろと気前が良いのかもしれぬ。この国は世界一美人が多いことだし、そのうち遊びに行こうかな?(笑)