歴史ぱびりよん > 映画評論 > 映画評論PART12 > ヒトラーに屈しなかった国王 Kongens nei
制作:ノルウェー
制作年度:2016年
監督:エリック・ポッペ
(あらすじ)
1940年、ナチスドイツ軍の突然の侵攻によってパニックに陥るノルウェー。
国王ホーコン7世(イェスパー・クリステンセン)は、家族と共に逃亡生活に入るのだが、後を追って来たドイツの外交官に向かって、決して降伏はしないと宣言する。
(解説)
シネスイッチ銀座で観た。珍しいノルウェー映画。
1940年のノルウェー戦役は、ほぼ互角の戦力を持つ英独両軍の知略と知略のぶつけ合いといった趣の戦いで、シミュレーションゲームの題材に成りやすい。私も、高校時代からこの戦役をテーマにしたウォーゲームをよく遊んだので、もともと興味があるテーマだった。
ただし、この映画はノルウェー映画なので、ノルウェーが主人公である。ノルウェー軍はそもそも弱体なので、史実だと戦力としてあまり役に立たなかった。そこをどうやって映画化するのか興味があったのだが、描かれるのは国王一家の逃亡生活であって、戦争はあまり前に出て来ない。
ドイツ軍はもともと、首都オスロを奇襲占領して国王一家を捕虜にすることで、その場で無理やり降伏文書に調印させる腹積もりだったのだが、オスロに突入させた重巡ブリュッヒャーがノルウェー軍の沿岸砲台によって撃沈される事態となり、国王一家に逃走の隙を与えることになった。
ヒトラーは、国王一家を捕らえるために追っ手を差し向けるのだが、駐ノルウェードイツ大使ブロイアー(カール・マルコヴィックス)は、独自の動きを見せる。力づくではなく、あくまでも外交的な話し合いに則って休戦しようとするのだ(実質は降伏勧告かもしれないが)。彼は、ヒトラーやリッベントロップ外相のやり方は、非文明的で非ドイツ的だと考えていて、「ドイツが後世の恥とならないように」、純粋な愛国心から行動する。
紆余曲折の末、ようやく国王一家に追いついたブロイアー。彼は、尾羽打ち枯らした悲惨な様相の国王たちを見て、交渉の成功を確信するのだが、国王の答えは「否」だった。
「ノルウェー国民が国王を信頼し愛してくれている以上、国王は彼らの気持ちを裏切ることは出来ない。国王は民衆のためにある。だから、どんな逆境に置かれても戦い続けるのだ」と。
ブロイアーは、イギリスへ亡命していく国王一家を見送るしかなかった。
純粋な愛国心から命がけの行動をするブロイアーは、官僚の鑑と言われるべき人物だが、国王ホーコンの啖呵も見事である。これぞ、北欧流ノブレス・オブレージュである。現在の北欧の人々が、高税率と高福祉を受け入れているのは、政府に対する深い信頼があるから。その根底にあるのが、王室と国民の間に流れる深い愛情なのである。
この映画は、第二次大戦を背景にしつつ、そのことを高らかに謳った作品として興味深い。そして、重巡ブリュッヒャーの轟沈シーンを見られるのはこの映画だけである。それだけでも、10代からのノルウェー戦役マニアとしては涎が止まらなくなるのだった(笑)。
それにしても、ヒトラーとナチスは、全世界の映画産業のために大貢献しているよね。アカデミー特別賞とか、彼らにあげたらよいのにね(笑)。