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9月9日木曜  オーストリアに到着

正直言って、オーストリアはどうでも良かったのだが、このツアーの性質上、プラハ3日、ウイーン3日というカリキュラムが出来ているので、これに従わざるを得なかったというわけ。

もっとも、現地に来る前はこのプログラムはナイスに思われた。なぜなら、チェコが俺の趣味に合わずに、早期脱出の欲求にかられる可能性だってあったから。しかし、チェコに惚れこんだ今の俺にとっては、ウイーンもオーストリアもおまけでしかなかったのだ。

ただ、シャベヤート空港ビルはたいへんに綺麗だ。チェコのとは比べ物にならぬ。さすがは西側ユーロ圏だわい。両替所で1万円をシリングに替えたら、おばさんに「オーストリアのシリングか」と聞かれた。オーストリア以外にシリングってあるのか?まさかイギリスの?あの質問の意味は、未だに不明である。

空港ビルは2階建てで、いろいろな店や喫茶店が並ぶ楽しいところだ。たまに、完全武装の兵隊が歩いているのが興ざめだが。ちなみに、オーストリアの兵隊は、紫色の軍服を着用している。欧州各国の兵隊さんを集めてファッションショーをやると、色とりどりで綺麗で面白いかもしれない。

空港構内を歩いていくと、レンタカー屋が多いのに気付く。やはり、車で旅行するほうが楽しいところなのだろうか。俺も、国際免許を取ろうかなどと考えてしまう。

そのまま発着所まで出向いて、リコンファーム(搭乗確認)の手続きをする。普通は、ツアーの場合は、旅行会社がやってくれるものである。マップツアーは、最寄りの職員がロンドンにいるという情けない会社なので、リコンファームも自分でやらなければならぬ。受付の兄ちゃんは、素早く端末を叩いて、迅速に手続きしてくれた。さすが、ドイツ民族は優秀だと思う。

さて、散歩にも飽きたので、市街に向かうことにする。方法としては、電車、バス、タクシーの三種類があるが、タクシーは高いから論外だ。電車も、中央駅までしか行かないのだが、目指すアナトールホテルは西駅に近い。そこで、西駅行きのシャトルバス(値段は千円くらい。東京と同じだ)に飛び乗った。バスはすぐに高速道路に乗り、順調に飛ばす。市街の手前で高速を降りたが、街に入ると、やはり混んでくる。最初に着いた鉄道駅で降りて、駅の構内を散歩する。なんだか薄暗いが、チェコの駅よりは自動化が進んでいた。売店でウイーンの市街地図と、ウイーンカルテ(三日間交通機関利用し放題の便利なカード)を買う。その際、店のオジサンにドイツ語で話し掛けてみたのだが、まったく通じなかったのがちょっとショックだ。悔しいが、この国でも英語で通すほうが無難かも知れぬ。

さて、地図を片手にホテルまで歩くことにする。いきなり迷った。標識の住所と地図の住所がまったく一致しないのだ。いったい、何でやねん。窮した俺は、近くにあったレストランで道を尋ねることにした。

開店準備中のレストランでは、ウエイターたちが忙しく働いていた。それでも、俺が英語で道を尋ねると、奥から4人ほど出てきて相談に乗ってくれた。前から思うことだが、ヨーロッパ人は親切だ。このレストランの規模から考えると、ウエイターのほぼ全員が、仕事を放り捨てて俺のために出てきてくれたことになる。

日本人は、冷たいと思う。大多数の日本人は、自分の仕事の支障にならない範囲でしか、人に優しくしないのだ。「仕事が忙しい」の一言で、どんな不義理や裏切りも正当化できると思っている馬鹿が実に多い。要するに、心に余裕を持てない子供なのだ。少しはヨーロッパ人を見習って、大人になるべきではないだろうか。

ともかく、優しいウエイターたちのお陰で状況が分かった。俺は、西駅で降りるつもりで、間違えて南駅で降りてしまったのだ。西駅行きのバスが、途中で南駅に寄ることをすっかり忘れていたのであった。道理で、目の前の地名と、地図上でイメージしていた地名が一致しないわけだ。地図を90度傾けたら、見事に一致したからおかしい。ともあれ、ここから、複雑な経路で北上しなければ、ホテルには着けないということらしい。

ウイーンの街の構造は、東京に良く似ている。市街の中心(リンク)から、幹線道路(シュトラッセ)が放射状に延びているから、東西の移動は比較的容易なのだが、市街中心を外れた南北の移動は困難なのだ。交通手段は、小路(ガッセ)を縫うように走るバスしかない。ウエイターたちは、バス停の場所と路線名、そして降りるべき場所まで丁寧に教えてくれたので、深く感謝しながらバスに乗った。

ウイーンのバスは、東京のバスとそっくりだ。行き先ごとに掲示板に料金が電光表示され、後払いするシステムである。俺は、ウイーンカルテの威力で、どこまで乗ってもフリーだから、その点は気楽である。不慮の事態とはいえ、小路の南北を走る旅も良いものだ。昔の堀をまたいだり、古びた教会の脇を縫ったり。ときどき、シュトラッセ沿いの繁華街と交差するのも楽しい。

窓外の景色に夢中になったせいか、降りそびれてしまった。バスは、いつのまにか終点まで来てしまったのだ。まあいい。俺はそのまま居座って、元の道を戻ることに決めた。下手に動くと、また迷子になるかもしれないし。驚いたことに、バスは元の路を走らないのである。ガッセは全て一方通行なので、1つ隣を逆の方向に走る路を行くのだ。南北の道路事情は、東京よりも厳しいということか?でも、往路と違う景色を楽しめるのだから、得した気分だ。

しかし、やっぱりどこで降りたら良いか分からない。ウエイターの教えてくれた降車地名は、どうやらバス停ではなく道路名(マリアヒルファー通り)だということに気付いたので、それらしい所で適当に降りてみた。ううん、かなり良い線だ。後は、目的地の住所を探り当てるだけ。しかし、これは驚いた。旅行会社が書いてくれた宿泊カードの住所に、誤記があったのだ。本当はwebgasseなのに、wabgasseと書いてあるではないか。道理で、ウエイターたちが困っていたわけだ。マップツアー・・・2度と使わねえ。

とにかく、苦労の末に、ようやくアナトールホテルに辿り着いた。こじんまりした地味なホテルだ。ううむ、道理でなかなか見つからなかったわけよ。でも仕方ない。ウイーンは、ホテル代が異常に高いところらしいから、あのマップツアーも、俺が支払った料金の範囲内で最善を尽くしてくれたのだと信じよう。部屋は、粗末なベッドとちゃちな机があるだけのシングルルーム。風呂場を見たら、なんと、湯船がない。シャワーを浴びるだけの代物だ。・・・プラハの方が良かった。まあ、宿では寝るだけだし、我慢しようか。

時計を見ると、もう4時だ。外は十分明るいから、さっそく市街中心部に観光に出かけることにした。ホテルはボロいが、意外と便利なところにあった。少し歩くと、地下鉄U3のジーグラーガッセ駅に出るのだ。この駅から2つ乗ると、王宮裏のヘレンガッセ駅に出たので、王宮の前を散歩しながらオペラ座に向かう。王宮は、実に大きくて立派だ。それにしても、リンクは車が多くて排気ガスまみれ。プラハの方が静かで良かったな。だいたい、道幅が広い割には横断歩道が少ないぞ。と、内心で文句を垂れつつ写真屋で使い捨てカメラを買うと、馬鹿みたいに高い。チェコの物価の5倍かよ。これじゃあ、東京と変わらないじゃないかあ。

オペラ座の前を東に折れると、やがてシュテファン大寺院に行き当たる。ここが、街の中心なのだ。観光客で鈴なりだ。ただ、残念なことに補修作業中だったので、寺院の美しい外観が台無しだった。寺院の周囲には、馬車が群がっている。ここからリンクを一周してくれるらしい。俺は動物が好きなので、馬の面を撫でながら周囲を散歩したが、馬車を使う気にはなれなかった。

大寺院の横の路を南に抜けると、リンクの南側に出る。その道の反対側にある緑地が、ウイーン市立公園である。水鳥が恋しくなった俺は、この公園で遊ぼうと考えたのだ。入ってみると、なかなか立派な公園だ。有名な金のヨハン・シュトラウス像も綺麗だが、どうも全体に人工的な臭いがする。なんだか、日比谷公園を髣髴とさせる雰囲気のところだ。当然、気軽に遊べる水鳥なんかいない。

ウイーンと東京は、非常に良く似ている。そして俺は、東京の街が大嫌いなのだ。だんだんと、嫌な予感がしてきたぞ。

もう6時だ。市立公園を西端から出て北上する。この路沿いに、有名なウイーナーシュニチェルの店(ミュラーバイスル)があるので行ってみた。なんと、客は日本人ばかり。みんな、「地球の歩き方」でこの店を調べて来たのだな。ミーハーどもめ、などと人の事はいえない。俺も同じだわい。ウイーナーシュニチェルというのは、要するにビーフカツレツだ。なかなかの美味で、食後のメランジェ(コーヒー)も旨かった。ただ、値段は高かった。3千円近くしたから、東京で食うのと同じくらいだ。

腹も一杯になったので、カールスプラッツ駅まで夜風に当たりながら散歩した。この駅は、地下鉄3路線の乗換駅なので、地下街が非常に充実していて楽しいところだ。でも、この雰囲気は、やっぱり新宿や渋谷の地下街みたい。まあ、俺は、東京の街並みは大嫌いだが、地下街は割と好きな人なのだ。だから、カールスプラッツは気に入った。しばらく散歩して酔いを覚ましてから、U2とU3を乗り継いでホテルに帰った。さあ、早めに寝ようと思ったら。

いかん、喉が渇いて仕方ない。あのカツは、実はかなりしょっぱかったに違いない。ボディブローのように、今になって効いて来たのだ。ホテルには、ジュースの販売機などないから、外に出る。なんと、道には自販機が全く無いのみならず、雑貨屋は全て閉店と来たか。さんざん探し回った挙句、マクドナルドを発見した。オレンジジュースのLサイズを買って、ようやく人心地。ところで、マックの料金表には、シリングの横にユーロの値段が併記してあった。なるほど、ユーロ圏なのだな、チェコより1歩先を行っているなと感じる。

ホテルに帰ってシャワーを浴びてから気付いたのだが、なんと、タオルが置いてないじゃないか。ううむ、ボロホテルめえ。というわけで、翌朝のベッドメーク宛てのチップを用意しないことに決めて寝た。