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8月12日(月曜日) ローマ自由観光

 


 

部屋の外でバンちゃんと待ち合わせをして食堂に行ったら、西川さんが一人で書類を見ているところだった。同席して、お勧め観光コースを聞いたところ、「ナヴォナ広場が良いですよ」と教えてくれた。そこで、午後にでもその広場に行って見ることに決定。

午前中の予定は、すでに決めてあった。ホテル前を走るトラムに乗って、ローマ市の外周部をグルっと周り、コロッセオからフォロ・ロマーノを巡るつもりであった。

しかし、トラムの券の買い方が良く分からない。ホテルのフロントに行って英語で聞いてみたところ、近くに雑貨屋があるから、そこで買えとのことだった。

そこで、バンちゃんと二人で沿道をブラブラと歩く。でも、ホテルマンが教えてくれた位置には、それらしい雑貨屋はないぞ。

困った俺は、沿道にスーパーマーケットを見つけたので、そこに入って若い店員の兄ちゃんに雑貨屋の場所を聞いてみた。やばい。この兄ちゃんは、イタリア語しか出来ない人だった。彼は、早口のイタリア語でいろいろと教えてくれるのである。どうやら、彼の知っている雑貨屋の場所を全て解説してくれているらしいのだが、通じないんじゃ意味ないぜ。それでも親切心は嬉しかったので、「グラッチェ」とお礼を言ってから店を出た。

ところが、しばらく歩くと後ろから「セニョール!」と呼ぶ声が。さっきの青年が、全力疾走で追って来たのだ。なんだろうと思ったら、どうやら「心当たりがもう1件あったのを教え忘れていた」ということらしい。いずれにせよ、言葉がまったく分からないので意味がないのだが、分かった振りをして彼の話を再び聞いて、丁寧にお礼を言ってから別れた。しかし、仕事をサボって見ず知らずの外国人に道を教えに走って来るなんて、すごく親切な青年だな。

考えてみたら、イギリスでも似たような経験をしたから、「親切」はヨーロッパ文化圏の共通の特徴なのだろう。家庭で、「困っている人には親切にしなさい」という教育が徹底されているのに違いない。日本も、少しは見習わないといけないな。

などと考えながら、適当にブラブラ歩いているうちに、ようやく雑貨屋を発見した。ここで「トラムの券を2枚ください」(トラム ビリアッテ ドゥーエ ペルファヴォーレ)とイタリア語で言って、首尾よく目的を達成。バンちゃんは、俺がイタリア語を流暢に喋ったので驚いていたが、これこそ、昨夜イタリア語のテキストを熟読した成果なのである。イタリア語の発音は、日本語とほとんど同じだから、カタカナで単語を覚えて適当に話しても、案外と簡単に通じるのであった。

ようやく券をゲットしたところで、最寄りの駅で念願のトラムに挑戦。グリーンの車両は、バスみたいな雰囲気で、昨日の地下鉄よりは遥かに快適だった。しかし、目的地とは反対方向に走っていることが途中で判明(笑)。雑貨屋を探すためにあちこち歩いたために、方向感覚が狂っていたのであった。しょうがないので、ボルゲーゼ公園の前で降りて、公園の入口辺りを散歩してから、正しい方向(時計回り)の路線に乗りなおした。

ローマ北郊のこのトラムは、自動車道沿いに大学都市の間を抜けて東へ進む。それから、昔の城壁を越えて南へと針路を変えた。俺は周囲の景色を慎重に観察し、そしてコロッセオの雄姿が見えたところでバンちゃんを促してトラムを降りた。今日の一発目の目的地は、コロッセオなのだった。

これは、古代ローマ時代の大競技場である。剣闘士同士、あるいは剣闘士と猛獣が決闘をしたり、軍隊が模擬戦をやったりしたところである。しかし、中世のころに教会などの建設材料に使われたため、全体的にかなりボロボロであった。

ひととおりコロッセオの内部を見て回った後で、コンスタンティヌスの凱旋門を見学。それから、フォロ・ロマーノに向かった。

フォロ・ロマーノは、古代ローマの政庁が置かれた一画である。建ち並ぶ大理石の神殿も凄かったが、俺が最も興奮したのは、元老院の会議場であった。紀元前の昔にヨーロッパ世界全体を統治した役所の建物が、今でも残っているのには心底から感動した。

真夏の日差しの中、二人はフォロ・ロマーノの奥からパラティーノの丘に登った。丘の上からは、昨日訪れた各施設が一望のもとだ。まさに、「歴史の息吹」に包まれているといった感じで、歴史ファンにとっては至福の時だったと言うしかない。

フォロ・ロマーノを出た二人は、エマニュエル2世記念堂やムソリーニが演説をしたといわれる市庁舎の窓を見学しつつ、昼飯を求めてテルミニ駅に足を進めた。

ムソリーニが作った巨大な鉄道駅テルミニは、ガラス張りのモダンな雰囲気で、なんとなくローマの瀟洒で古風な雰囲気に合っていなかった。生粋のローマっ子は、ムソリーニの建築物が大嫌いなのだそうだが、その気持ちは分からないでもないな。

我々は、しばらくモダンな駅の構内をウロウロしたのだが、食堂はどこも混んでいたし、思ったより気の利いた土産物が無かったので、散策を諦めて駅舎を後にした。

駅の外で、次の目的地についてガイドブックを見ながらバンちゃんと協議した結果、「パンテオン経由でナヴォナ広場に行く」ことに決定。そういうわけで、駅前広場でタクシーを拾い、パンテオンに向かった。

運ちゃんがガラの悪そうな兄ちゃんだったので心配だったが(ローマには、不良タクシーが多いらしい)、何事も無くパンテオンの付近に到着。料金をボラれることもなく支払いを済ませると、付近のカフェテリアに入った。さすがに、腹ごしらえが必要だからね。

もう午後2時のせいか、店のショーウインドウ内に残る品数は少ない。しょうがないので、冷めたピザとビールを買って、オープンエアのテラスに座った。しかし、このピザが無茶苦茶に美味かったのだ。空腹だったせいもあるけど、「イタリアでは、冷めたピザでも美味い」というのは嬉しい発見なのだった。

食い終えて沿道を眺めていると、公衆電話を発見。家族に電話する用事を思い出したので、ちょっと店を出て電話機の前に立った。おかしいな、繋がらないぞ。何度か試行錯誤して悩んでいると、後ろから「大丈夫ですか?」と鈴のような声音の英語が。振り返ると、15、6歳の目も醒めるような白人美少女が笑顔を浮かべて立っていた!あんまり美しすぎて、人間に見えない。動揺してしどろもどろ言いながら、電話を譲ってあげた。「ナンパすりゃ良かった!」と今では後悔しているが、あんまりハイレベルの美人に出会うと、普段のような毅然とした行動は取れなくなるよね。肝心の電話だが、後でガイドブックを読んだところ、公衆電話の操作法を間違っていたことが判明。だから通じなかったのだなと、納得。

さて、腹ごしらえと休憩が済んだので、店の付近にあるパンテオンに突入した。これは、古代ローマ時代の多神教の神殿跡である。キリスト教が浸透してからは一神教寺院に作り直されたのだが、天井に空へ抜ける穴が開いていたりして、昔の遺構がそのまま残っているのが貴重なのだった。

内壁のあちこちに、聖者のミイラが置いてある。バチカンのピエトロ聖堂にもあったが、キリスト教信者は「死後の復活」を信じているから、偉い人の死体をミイラにして遺すのだ。日本人の感覚からは、趣味が悪いとしか思えないのだが。

見学を終えると、少し西に歩いてナヴォナ広場に達した。2つの美麗な噴水がある南北に細長い立派な広場だ。悪い場所ではないけど、西川さんがわざわざここを推薦した理由が分からない。プロの嗜好は、アマチュアには分かりにくいってことかな。俺たちは、ベンチに座ってジェラードを舐めながら、子供たちがサッカーに興じる様子を漫然と眺めた。

イタリアでは、どの場所でも必ず子供たちがサッカーをやっているから、この国のサッカーが強くなるのは、しごく当然だと感じた。

時刻は4時近い。でも、まだまだ体は元気だし、見るべき名所は無数にある。俺たちは広場の南に出て、街道沿いに西を目指した。デパートで雑貨を買いつつ、いつしかエマニュエル2世記念堂の前に出ていた。この王様は、19世紀にイタリアを統一王国にした英傑だ。もっとも、難しい仕事は部下のガリバルディが全てやってくれたわけだが(笑)。この記念堂は、フォロ・ロマーノを見下ろす形に建っている。ここから眺めたローマ遺跡の美しさは、何物にも喩えられない素晴らしさだった。

さて、ガイドを眺めているうちに「骸骨寺」に行きたくなった。そこで、そのまま西へと歩いていくと、狭い路地に嵌ってしまった。ここは、どこだ?バンちゃんは、俺を信じて素直に付いて来る。彼の信頼を裏切るわけにはいかないので、道が分かっている振りをしながらどんどん歩くと、いきなり混雑した広場に出た。見覚えがある場所だな、と思ったら「トレビの泉」でやんの。ああ、良かった。ようやく、自分たちの位置が把握できるようになったぞ。

ここからは簡単だ。売店で買ったミネラルウォーターを飲んで一服すると、路地を北に抜けて「骸骨寺」を目指した。

しかし、ローマの街は本当に楽しいな。この街なら、1週間いても飽きることはないだろう。今日が最終日なのは、本当にもったいないと感じた。だから、ガイド付き団体旅行は嫌なんだよ。自由がない。

しばらく歩くと、沿道の小さな売店でエロ雑誌を売っていたので、興味にかられて何冊か買って見ることにした。手にとって物色していると、店のオジサンが出てきて、いろいろと説明してくれた。「こっちは変態系で、こっちはソフト系で」という具合。しかし、オジサンはイタリア語で話し、俺は英語を用いたはずなのに、意思疎通が出来たのは不思議である。エロを求める男の本能は、コミュニケーション能力を一時的にニュータイプ(『機動戦士ガンダム』参照)やジェダイの騎士(『スターウォーズ』参照)の水準にまで引き上げるということだろうか?(笑)。

とりあえず、エロ雑誌を2冊買って、オジサンに笑顔で別れを告げた。バンちゃんは真面目だから、その間ずっと離れた位置で他人の振りをしていた(笑)。

さて、少し進むと目的の「骸骨寺」があった。タペストリーの全てをカトリック信者の人骨で作ったという教会である。日本人の感覚では気持ち悪い話なのだが、ヨーロッパ人が自分の死体を現世に残したがるのは、ミイラと同じ発想(死後の復活)から来るのだ。

入口では、修道僧が入場料を徴収していた。彼が、いかにも隠々滅々とした暗い素振りをしつつも、掌を突き出してカネを取る様子は、むしろ滑稽だった。

館内は、確かに白骨の山だ。あらゆる調度品が白骨で出来ているので、見ているうちに段々と気持ち悪くなった。俺は、ホラー映画とかスプラッタ映画を見慣れている人なのだが、やはり本物とは迫力が違う。でも、「どんな人間でも、死ねば必ず骨になるのだ」という実感を強く持てたので、ここは人生勉強になる良い場所だったと思う。

さて、もう夕方だから、腹ごしらえの場所を探さなければならない。

イタリア大通りを目指して歩いていると、前方に色の黒い少年たちが現れた。

「しまった!ジプシー少年団だ!」「うわー、身包み剥がれちゃうよ!」と恐怖に震えた二人だったが、少年たちは互いの顔を見合すと、その場からそそくさといなくなった。

ああ、助かった。でも、どうして?

帰国してからカナダ人のイアン先生(社内英会話教室)にその話をしたら「Nobuの顔が怖いからだよ」と真顔で言われた。

そ、そうなのか?

俺の顔は、外人には怖く見えるらしい。なんだか、釈然としないものがあるが、ともあれ助かった。

ジプシーの攻撃をかわした我々は、イタリア大通り沿いのオープンエアのレストランでオードブルとパスタを食べた。ここは、映画『太陽がいっぱい』でアラン・ドロン演じるリプリーがお茶した場所である。そのために観光客が多く、味の割には料金が高めだった。まあ、こういう経験も悪くはないだろう。

店を出たときはもう夜7時だったのだが、陽はまだまだ高い。さすがはヨーロッパ南部の国だけに、夏の日照時間は極めて長い。観光客の立場としては、実に得をした気分。そこで、道を北に上りきったところにあるボルゲーゼ公園に遊びに行くことにした。

道中で、バンちゃんにローマの歴史のウンチクを語ったところ、なぜか「ハンニバルのローマ包囲」の話題で盛り上がった。俺は、ハンニバルが好きだからな(レクター博士のことじゃないぞ!)。とりあえず、日本に帰ったら、塩野七生さんの『ローマ人の物語』を読み始めることに決める。

ボルゲーゼ公園は、ローマ最大の緑地である。ロンドンのハイドパークに負けない面積と施設を誇るので、とても短時間では回りきれない。いずれにしても、この時間帯では博物館も美術館も開いていないだろう。そこで、公園を南から北に普通に縦断してホテルに戻るプランにした。

美しい庭園を観賞しながら歩いていると、いきなり大柄の太った爺さんに話しかけられた。この爺さんは、日本語どころか英語も出来ないとのこと。それなのに、どうして東洋人に話しかけたりするんだろうな?もしかすると、何かの犯罪が絡んでいるのだろうか?

しかし、ボディランゲージまじりで意思疎通を試みたところ、どうやら若いころの思い出話を誰かにしたかっただけらしい。彼の言っていることはほとんど理解できなかったのだが、彼のほうは20分も言いたいことを言って満足したようなので、そのまま笑顔で別れた。考えてみたら、俺ってすごく優しいんだなあ。

やがて、午前中にトラムを乗り間違えた結果放浪した公園の北側入口に到着。タクシーを拾おうと思ったら、ぜんぜん来ないや。トラムも来ない。本日の営業は終了したってことだろうか?イタリアなら有り得ることだ。そこで、嫌がるバンちゃんを促して、トラムの線路沿いに北東に歩いた。このまま進めば、ホテルに到着するはずである。

歩いているうちに、陽が落ちて周囲は真っ暗になった。

俺は、たいへんな健脚の持ち主なので、どんなに歩いても滅多に疲労することがない。それに付き合わされるバンちゃんは、毎度の事ながらご苦労様でした。

思ったよりも長距離を歩き、ようやくホテルに到達。開いている雑貨屋が近所にあったので、ミネラルウォーターの大きめのボトルを2本買ってから部屋に帰った。

ベッドに横になったら、急に疲労感に襲われた。いや、これは違うな。炎天下の中、帽子を被らずに1日中歩き続けたから、日射病の初期症状に襲われたのだ。

今日は晴天で、真昼の気温は恐らく40度近かっただろう。それなのに、日本と違って湿気が少ないため、あまり暑さを感じなかったから油断したのだった。その点、帽子を着用して行動したバンちゃんは大正解だったわけだ。

大急ぎでミネラルウォーターのボトルを冷蔵庫から取り出し、一気飲みをした。水分で、体を冷やさなければならない。結局、眠りにつく前に大きめのボトル一本を空にした。

ううむ、明日が心配だ。病気になっていなければ良いのだが。