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8月11日(日曜日) ローマ団体観光

 


 

団体旅行は、時間厳守である。

ホテルでバイキング形式の朝食を取ってロビーに行くと、真面目な日本の同胞たちは、ちゃんと準備してバスの到来を待っていた。午前中は、1台の観光バスを借り切ってローマ市内の名所巡りをするのである。

最初は、トレビの泉。後ろを向いて、小銭を泉に投げ込んだ。

次は、真実の口。順番待ちの行列を経て、口の中に手を突っ込んだが、咬まれなかった。

古代の円形競技場(チルコ・マッシモ)は、バスの窓から眺めた。

なお、この旅行記で、団体行動での記述がそっけない理由は、俺が団体行動はもとより、観光客がひしめくようなミーハーな名所に興味を持てない人だからである(笑)。

やがてバスは市内の繁華街に行き、なぜか三越デパートの駐車場へ。ガイドの西川さんいわく「1時間で、お買い物してくださいね!」。つまり、このツアーは、三越からバックマージンを受けていたというわけだ。団体旅行は、だいたいそういうものだが。

俺は宝飾品売り場で、2万円のカメオを買った。プレゼントしたい女性がいたからである。諸般の事情で、そのカメオは、まったく違う女性に渡ることとなった。しかもその女性は、友人の奥方である。結果的に、まったく無意味な買い物だったわけだが、それは後の話。

俺には、「海外旅行先で女性にお土産を買った場合、帰国後6ヶ月以内にその女性との仲は破局を迎える」という恐ろしいジンクスがある。これが、その最初の例だったとは、そのときは知る由もなかった。

買い物タイムの後、我々は小奇麗なレストランに行ってパスタを食べた。ここはバイキング形式で、ウェーターが持ってくる皿の中から好きなパスタを選べるシステムになっていた。この店には、様々な種類のパスタが用意してあったのだが、日本人観光客はなぜかスパゲティしか食べようとしない。そのため、ペンネなどは余りまくってウェーターを困らせていたようだ。まあ、日本は蕎麦、うどん、ラーメンの文化だからねえ。

そのとき、戸外から女性の悲鳴が。窓際に座っていて目撃した同胞の話によれば、スクーターに乗った引ったくりが、歩行中の女性のハンドバックを盗んで行ったんだそうな。ひえー。

そこで、ガイドの西川さんが、いろいろと教えてくれた。

「最近は、スクーターを用いた引ったくりが盛況なので、盗られないように、バックは体の前にしっかりと持っていてください。万が一引ったくられたら、諦めてバックを放してください。さもないと、バックごとスクーターに引きずられて大怪我をしますから。また、ジプシーの少年たちが日本人観光客を狙っています。彼らは、幼少のころからあらゆるテクニックを仕込まれた泥棒のプロですから、目を付けられたら最後だと思って諦めてください」

どひゃー、さすがイタリア。恐ろしい国じゃのう。やはり、団体旅行で来たのは正解だったのだろうか?

さて、午後の一発目は、観光バスでバチカン市国へ向かう。

「嫌だなあ」と感じたのは、サンピエトロ広場は売り子の群れが徘徊し、観光写真などを日本語で「買ってよ」「安いよ」と、しつこくかます点である。これでは、カトリック教会大本尊の威信が形無しではなかろうか?

でも、バチカン博物館は凄かった。ミケランジェロの本物があるんだもんな(当たり前だが)。全世界の敬虔な信者から、莫大なお布施を巻き上げて造っただけのことはある。今思えば、俺が後にカトリック教会の腐敗を非難する小説(『ボヘミア物語』)を書くようになった契機は、このときに生まれたのであろう。

さて、見学を終えて戸外でアイスクリームを舐めていると、西川さんが近づいて「もう観光バスは帰してしまったので、これからは自由行動で良いですよ」と言ってくれた。自由を愛する俺にとっては、すこぶるラッキーだぜ。でも、特に行く当てもないな。

西川さんはといえば、これから希望者を募って地下鉄A線でスペイン広場に行く予定らしい。そこで、俺とバンちゃんもそれに便乗することにした。イタリアの地下鉄も経験してみたいし。

ローマの地下鉄は、A線とB線の2路線しかない。この街の地下には古代遺跡が多すぎて、文化財保護が問題になるので、うかつに掘削できないからだそうだ。確かに、カーズやワムウやエシディシを掘り出したら(笑)ヤバいだろうね(漫画『ジョジョの奇妙な冒険』参照)。

さて、我々が乗ったA線は、汚いステンレスの車両で、落書きだらけ傷だらけだった。さすがはイタリア、風紀が素晴らしいことになっていますなあ。地下鉄は、狭くて空気も悪かったが、快速ですっ飛ばすので、あっというまにスペイン広場駅に到着した。

地表に出た時点で「解散」となったので、俺とバンちゃんは二人きりでスペイン広場を見学した。ここは、映画『ローマの休日』が好きな人には、たまらない場所だろう。有名な大階段には、大勢の絵描きや似顔絵描きがいて、俺たちは彼らの素晴らしい技量を背後から垣間見て感興に浸ったのであった。

でも、スペイン広場の周辺には、他に見るべきものもない。時計を見ると午後5時で、えらい中途半端な時間である。二人は相談の上、喫茶店でジュースを飲んでくつろいだ。どういうわけか、客があまり入っていないガラガラの店だった。きっと、今ごろ潰れているだろうな(笑)。

その後、腹が減ったので付近のレストラン街を徘徊し、「観光客コース」という格安メニューを置いてある店を発見した。ここはオープンエアの洒落たレストランで、すでに大入り満員だった。この店に決めた我々は、赤ワインで乾杯し、例の「観光客コース(トマトスパゲティ+骨付きチキン)」を注文した。いやあ、これがすこぶる美味で、店の雰囲気と相まって幸せいっぱいになった。イタリアは最高だなあ。

すると、イギリス人の中年夫婦が後から来て相席になった。これが好奇心一杯の夫婦で、やたらと日本のことを質問して来る。もちろん、英語で。俺は、一生懸命「お国自慢」をやったのさ。

「世界に誇れる文化、それは日本料理の味!ロンドンにも日本料理店あるかって?当たり前です!ちゃんと探してください!」

「なになに?日本にはワインなんか無いだろうって?バカにしちゃいけないよ!甲州ワインを知らないのですか!」

「『元号』って知ってます?もう、世界中で、もう日本しか持ってない貴重なものなんですよ!」

「なんで日本と韓国は国が隣接しているのに言葉が違うのかって?イギリスとフランスの関係と同じことですよ!」

「なんで日本とイギリスは、共に自動車が左側通行なのかって?あれは、そもそもナポレオン時代に遡って・・・!」

などと弁じていると、バンちゃんもいきなり片言英語で「アイルランドのテロ問題」についてイギリス人に突っ込みを入れたりする。酔っていたせいもあるが、もう滅茶苦茶である。

ともあれ、平均的(?)なイギリス人が持つ日本観の貧弱さについて知ることができて勉強になった。こういうことがあるから、海外旅行は楽しいのだ。また、会社で英会話を勉強していたことが大いに助けになった。イアン先生、ありがとう!

さて、満腹してイギリス夫婦に別れを告げた我々は、タクシーでホテルに帰った。明日は完全自由行動の日だ。そういうわけで、俺はベッドの中でテキストを開いてイタリア語の勉強をしてから眠りについた。