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9月9日木曜  ヴルタヴァ河畔の散策

7時に目が覚めた。ウイーン行きの飛行機は12時発だから、まだ間がある。そこで、チェックアウトを済ませてから、重い荷物を抱えて旧市街へと向かう。ムステークで下車して東へと歩き、いわゆる火薬塔の前に出て、そこをくぐって旧市街広場へ。どうして旧市街広場に来たかというと、ここはいつも混んでいるので、じっくりと見学できなかったからである。

さすがに8時前だと誰もいないから、無人の広場を独り占めして、有名な「石の鐘の家」や、二十七人の処刑跡も、じっくりと見ることができる。二十七人跡というのは、17世紀の三十年戦争の際、チェコの新教派(フス派の末裔)がオーストリアの旧教軍に敗れたとき(白山の戦い)、この旧市街広場でチェコの要人がさらし首になった跡である。驚いたことに、ちゃんとペンキで×印が、地面に27個書いてある。この拘りはさすがだ。何しろ白山の敗戦は、チェコ人にとって忘れがたい屈辱の歴史なのである。歴史を大切にする民族の意地を感じた瞬間であった。

日本は、学校が荒廃してたいへんなことになっている。子供達が、将来に自信と希望を無くしていることが大きな理由だと思われるが、戦後教育で歴史を軽んじてきたことのツケが回ってきたのではないだろうか。民族の誇りは、歴史教育によってもたらされるのだ。チェコを見習って、受験対策の詰め込み式ではない、きちんとした歴史教育を行なうべきではないだろうか、などと考える。俺は民族主義者ではないが、己の民族を愛せない者に、真の国際化はできないはずだと信じている。

さて、その後はユダヤ人街を散歩してから川辺に出て、東岸沿いに南下する。目標はスメタナ博物館だったのだが、開館は10時からだった。ここを見学してしまったら、飛行機に間に合わなくなるから、博物館の立派な建物を外から眺めるだけにした。

本当は、飛行機をパスしようかとも考えたのだ。しかし、ガイドを見ると、鉄道でウイーンまで行こうとすると、特急列車でも4時間かかることが判明した。結局、時間が無いことには変わりないので、見学のほうを諦めざるを得なかったというわけ。返す返すも残念だ。

さて、川辺の散歩を続けて更に南に歩くと、有名な「国民劇場」の前に出る。ここは、プラハ市民全員の寄付によって建てられた美しい劇場である。そこから、軍隊橋を渡って西岸に向かう。この橋は、コンクリート造りの立派な橋で、バスやトラムも走っているから、観光名所としては面白くない。ただ、途中から川の中洲に降りることができるのがナイスである。

中洲に降りて北端まで歩くと、正面のカレル橋が陽光を浴びて輝き、その左にはプラハ城が美しく聳え立つ。我ながら、ナイスな穴場を発見したものだと自画自賛。さらにナイスなのは、この辺りの水辺には水鳥が多いという点である。俺は、昔から水鳥が大好きなのだ。映画「グース」なんか最高だね。食うのも好きなんだけどね。昨日も食ったんだけどね。ともあれ、白鳥、家鴨、ガチョウといった可愛い子ちゃんたちが、ガアガア鳴きながら群れている。俺が近づくと、食い物を貰えるかと思って、みんな寄ってくるのがいじらしい。カバンを漁った俺は、空港で両替するときに買ったチョコバーが残っているのに狂喜した。これを千切って鳥たちに呉れてやると、旨そうに(!)嘴を真っ黒にしながら食べるのだ。俺の心は、愛情ではちきれそうになる。変態というわけではないけどね(本当か?)。拉致監禁したいとは思わないけどね(本当か?)。しかし、チェコでは水鳥コンは何罪になるのだろうか。死刑でなければよいのだが・・・。

さて、水鳥をからかうのに飽きると、中洲を去って西岸に入る。そのまま北に直進してカレル橋まで行くと、このあたりが小さな島になっていることに気付く。後で気付いたのだが、この辺りは、映画「ミッション・インポッシブル」前半の舞台となった場所なのだ。トム・クルーズ扮するイーサン・ハントが、仲間を失いながら必死の形相で駆け回るのが、このカンポ島だ。彼が、上司のフェルプス(ジョン・ボイド)の危機を知って駆け上がったところが、カレル橋というわけだ。ううむ、俺はトムと同じ土を踏んだわけなのだなあ。というわけだから、トムのファンは俺の足の裏を舐めたまえ。きつい塩味の間から、ほのかにトムの味がするかもよ。

さて、カレル橋に上がって、じっくりと見学しながら旧市街に戻ると、もう時刻は10時だ。名残は惜しいが、空港に向かわずばなるまい。スタレームニェツカから地下鉄でディヴィチェまで戻り、そこからバスに乗って空港へ。

最大の心残りは、スメタナ「我が祖国」の6曲目「ブラニーク」に行けなかったことである。ここは、ボヘミア中央部に聳える大きな山で、歴代のチェコの騎士たちの魂が眠る場所だという。ここに行くには、ベネショフからバスで3時間くらいかかるらしい。とてもじゃないが、時間的な余裕がないので、今回は来訪を断念せざるを得なかったのだ。まあ、いずれまた訪れる機会もあるだろう。

さて、空港で無事に搭乗手続きも済ませてから財布の中身を見ると、驚いたことに600コルナも残っている。3日間あれだけ遊んで、6千円しか使わなかったという計算だ。安上がりだなあ。日本円に戻すのも面倒なので、土産屋でTシャツやお菓子を買う。ここは観光者価格だったので、たちまち4千円が消し飛んで、コルナをほとんど使い切ることができた。後は、余った小銭でコーヒーを飲んで飛行機を待った。

ウイーン行きの搭乗入り口を入ると、大きなブースがあって、ショコダ自動車の最新モデルが展示されてあった。やっぱり、自動車産業は頑張っているのだなあ、と何故か安心する俺であった。

機内で簡単な軽食を食べ終えて人心地になると、双発レシプロ機はウイーン空港に滑り込んだ。これから、オーストリアの旅が始まる。