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アイアン・スカイ  Iron sky

制作;フィンランド、ドイツ、オーストラリア

制作年度;2012年

監督;ティモ・ヴォレンゾラ

 

(1)あらすじ

ナチスドイツは生き延びていた!1945年の敗戦直前に、UFOで月の裏側に逃れて秘密基地を作っていたのだ。

そして今、地球人類に対する反撃が始まる。

 

(2)解説

新宿「武蔵野館」で観た。

「ナチスが月の裏側で生きている」というのは、大昔から伝わるトンデモ系の都市伝説だ。当然、ハリウッド辺りでとっくに映画化されていると思いきや、実はこれまで存在しなかったんだね、意外なことに。

さらに意外なことに、今回名乗りを上げたのがフィンランド。フィンランド産のSFコメディ映画なんて、本当に大丈夫か?と心配したのだが、制作者はインターネットを利用して制作資金のカンパを募り、また、最終的にドイツ資本が味方に付いたせいなのか、やや荒削りな部分を感じさせつつも、なかなか楽しく観ることが出来る映画に仕上がった。

さらに、ストーリーの内容に完全に意表を衝かれた。物語の骨子は実は、『ディクテーター』以上に痛切で深刻な「アメリカ批判」なのである。むしろ、スペース・ナチスは、アメリカの凶悪さをアピールするための狂言回しに過ぎない。もちろん、劇中のナチスは それなりに凶悪なのだが、アメリカの凶悪さに比べると遥かに可愛く見える。それが制作者の真の狙いだとすると、実に知的な仕掛けである。

この映画の主人公は、事実上、アメリカ大統領である。サラ・ペイリンに瓜二つの(笑)、超絶的に頭と性格が悪い女性大統領である。そもそもの事件の発端は、このバカ大統領が、再選のための宣伝活動で月の裏側に宇宙飛行士を送り込み、それがスペース・ナチスの領土を侵したことである。そして、スペース・ナチスが宇宙艦隊で地球に攻め込むと、このアホ大統領はむしろ、「戦争勃発で再選の可能性が高まった」と大喜びするのである。

そして、スペース・ナチスの地球侵攻軍は、満を持して(?)迎え撃ったアメリカ軍の前に秒殺される。勢いに乗ったアメリカ宇宙軍は、領土と資源を増やすために「女子供も皆殺しじゃー」とか叫びつつ月の裏側に侵攻するのだが、その後ろには利権狙いの世界各国の宇宙艦隊が追随する。最後は、敗北したナチスの利権を巡って、世界の政府首脳たちが殴り合いの大喧嘩!

と、これほどまでにブラックなテイストの社会風刺映画を観るのは、なかなか久しぶりだった。名作『博士の奇妙な愛情』をモチーフにしつつ、さらにその上を行っている。  ギャグの切れがやや緩慢だったことと、CGの質がイマイチだったことだけが残念である。

なお、ヒロイン・レナーテ役のユリア・ディーチェは、なかなか可愛くて美人だったのだが、なんとドイツ人の女優さんなんだね!ドイツ人って、ブスしかいないものだと思い込んでいたので、謹んでお詫びと訂正を申し上げます(笑)。